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2004年12月20日

妖精の鈴

投稿者 chinjuh : 2004年12月20日 19:56

 ある夜耳元で聞こえたのは微かな鈴の音でした。それは百円玉を打ちあわせたのより微かで、それでいて澄んだ美しい音色です。

 ある夜、妖精の伝説を集めた本を読みながら「妖精に会いたいなあ。どっかにいないかなあ」などとお気楽なことを考えていました。
 妖精と言ってしまうとあくまで想像の産物のような気はするけれど、こういうものは目に見えない不思議な磁場というか、エネルギーというか、そういう形のないものに人間が名前と姿をあたえたんだと思うんです。
 同じように、日本の妖怪だって、あのままの形で存在するかどうかは別として、自然発生的に生まれた妖怪ならば、言い伝えと同じ役割をする何かが存在してるのかもしれないんです。
 そんなことを考えながら明かりを消して布団に入りました。
 しばらくすると、耳元で何か聞こえるんです。

 チーン
 チーンチーン
 チーン…

 やっと聞こえるようなかすかな音ですが、たしかに何かが鳴っています。金属がぶつかりあう音です。たとえて言うなら、人差し指と中指に百円玉を一枚ずつのせて、縁と縁をそーっとぶつけ合ったような音なんです。

 やってみればおわかりと思いますが、百円玉の音は意外と美しい音が出ます。でも遠くまで響くような音ではありません。部屋には誰もいません(というか、自分以外の誰も家にいません)。家の外から聞こえる音にしては、あまりにも微かなな音なんです。それでいて余韻がしっかりしていて、百円玉の音よりも乱れがなく、冷たく透き通った音でした。

 とりたててリズムらしいリズムもなく、音階もありません。単調にチーンチーンという音が続くだけです。けれど、とても美しい音です。一体、何と何をぶつけ合えばこんなに微かでそれでいて澄んだ音が出るのでしょう。その音は十五分くらいつづいて聞こえなくなりましたが、一体なんだったのかいまだにわかりません。

 もしかすると日本で妖精の役割をするような何かが「そんなに見たけりゃ見ていきなよ」って耳元で演奏会を開いてくれたのでしょうか。そう思うと楽しいんですけど、残念ながらいつもどおり何も見えませんでした。

 そういえば、妖精の音楽というのは、短いフレーズをいつまでも繰り返しているだけなのだそうです。西洋では偶然にも妖精のパーティーを見てしまった人が、あまりにも単調な音楽を聞いているうちに「ここで変化をつけたらもっと楽しくなるはず」と、思わず口に出して歌ってしまうのです。

 妖精たちは大喜びして、人間をまじえて歌や踊りを続けます。人間は妖精からお礼の品をもらって家に帰りますが、ここで登場するのが性悪爺。どこにでもいるんですよねえ。他人の成功をうらやんで、自分も真似しようとするんだけれど、やり方が姑息なので失敗する困った人が。

 性悪爺さんが話に聞いた場所で待っていると、妖精がやってきて単調な音楽にあわせて踊り始めました。そこできちんと真似ができればいいのですが、欲の皮がつっぱっているので気ばかりあせってハズしてしまうんです。妖精たちは白けてパーティーどころじゃありません。俺たちの楽しみをよくも邪魔しやがったなーと、性悪爺を懲らしめます。

 この話、何かに似てませんか?
 日本の「こぶとり爺」がこれにそっくりです。鬼の宴会を見たお爺さん。もともと踊りが大好きで、楽しげな音楽を聞いているうちに我慢しきれなくなって踊り始めます。突然まぎれこんできた人間におどろきながらも、お爺さんの見事な踊りに鬼たちは大喜び。お爺さんの顔にくっついている大きなコブをとってくれました。その話を聞いた隣の爺さんは… ね、そっくり。

 日本では妖精の代わりを鬼がやってるのでかなりイメージが違うんですけど、この話、成立したのは室町だったかしら、ちょっと失念しましたが、けっこう古いお話なんです。当時「鬼」と呼ばれていたのものは、今のように角があって虎のフンドシをして地獄で亡者をいじめているアレとはちょっと違うらしいのですよね。もっとイメージの幅が広くて、人間の理解がおよばない恐い存在のすべてを鬼と呼んでいたらしいのです。そう思うと、西洋の妖精とも通じるものがありそうな気がします。

 そこで思うのですが、わたくしも耳元で聞こえる鈴の音に、何か合いの手をいれてあげるべきだったのかもしれません。美しいけれど単調なリズムに、的確な変化を与えられたら、今頃ものすごいお金持ちになって、プロバイダーごと買い取ってうはうはなインターネットライフを営んでいたかもしれません。ちょっと惜しかったです。


 というわけで、稲川淳二の冬の怪談にトラックバック。そういえば、↑の体験は冬のけっこう寒い夜だったなあ。夏はもちろん怪談の季節なんですが、冬の切れるような寒さにも恐怖がかなり似合います。

 ちなみに、私はネタ袋から怪談を送っている珍獣ららむ~と同一人物です。書き方が同じなので見ればわかると思いますが、こんなに参加者が少ないと重複で賞品をもらう事故がおきないとも限らないので白状しときます。単なる怪談好きなんです。ぶっちゃけ賞はほかの人にあたっちゃってもかまいません(でもサイン本は欲しいー)。もっと参加者が増えるといいなあ。

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