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豆腐百珍:松露豆腐(霰豆腐)と釈迦豆腐

 釈迦豆腐、松露豆腐どちらも揚げ豆腐です。

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九 霰豆腐(あられどうふ) よく水をおししぼり小骰(さい)に切り笊籬(ゐかき)にてふりまはし角とりて油にてさつと煠(あけ)る也 調味好ミしだひ ○少し大きなるを松露(しやうろ)とうふといふ

 小さいのを霰(あられ)、少し大きいのを松露(しょうろ)というそうです。大きさからいうと霰より松露なので後者の名前をとります。

 揚げ物だから水を切ったほうがいいと思い、あらかじめ重しをして水切りしました。それから賽の目に切って、笊(ざる)に入れてふりまわす……うーん、たしかに角は取れるけど、霰や松露を思わせるほど丸くなりませんでした。水切りしたのがいけなかったのでしょうか。しかし水を切らなければ油が跳ねそうですしね。

 とにかく揚げてみたら上の写真のようなものになりました。うーん、苦労してまで作るものかな、これ。「さっと揚げる」くらいじゃただの豆腐なんだよねえ。やっぱりもっと丸くして見た目で勝負しないとダメなんでしょうね。





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五十三 釈迦とうふ 中骰にきり笊籬(いかき)にてふりまはして角とり葛をあらりと米粒ほどに碎き豆腐に纏しつけ其まゝ煠るなり

 こちらは釈迦豆腐です。やはり籠に入れてふりまわし、角をとるとあります。そこへ、葛を荒くくだいたものをまぶすとありますが……あー、くっつきませんよ、葛の粒が豆腐にくっつきません。やはり豆腐に押しをして水を切ったのがいけなかったでしょうか。

 仕方なくやや水をつけてみると、ついたことはつきましたが、豆腐より手に葛がついてしまいます。もったいないなあ、現代では吉野葛が高いのに。

 それでもなんとかまぶしつけて油に放り込むと……おっ、いけてるかもしれない。葛の粒がぷうっとふくれてカリッとなりました。このつぶつぶがお釈迦様の頭に見えるから釈迦豆腐ですね。

 このまま山椒塩でもつけて食べたらいいのでしょうが、つい出来心で出汁に醤油を少し入れたのに浮かせてみたら…
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しまった、揚げ出汁豆腐になっちゃったじゃないか! ポイントは豆腐がお釈迦様の頭に見えることなのに、こんな出し方をしてはいけませんね。でも味は最高でした。

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豆腐百珍:すり流し豆腐

十四 すり流し豆腐 よくすりて葛粉(くつのこ)を混(まぜ)てよくすり味曾汁へすりながす也

 豆腐をすりつぶして葛粉を混ぜたものをみそ汁に「すり流すべし」とあります。

 しかし、豆腐と葛粉を混ぜただけでは、ボタッと落ちる感じになって、すり流せるほど薄くなりません。

 そこで、少し水を足してみました。液体になってしまうと違う気がするので、すり鉢を傾けてもこぼれない程度のペーストにしました。

 そうして、おたまですくい、沸騰するみそ汁へ。するとどうでしょう、ペーストは固まらず、散ってしまいました!
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 想像では豆腐のペーストがふわふわと汁に浮くかと思っていたのに、実際にはこのとおり、完全にとけてしまいました。

 果たしてこれが正解でしょうか。それとも葛粉が足りなかったのか。あるいは水でのばしたりせず、ぼとんぼとんと落とすべきだったか……レシピにはすり流すとどうなるか書かれていないので、何が正しいのかわかりません。

 味は、意外にも美味しいんです。まあ、豆腐と葛粉ですから不味くなる要素はまったくありませんからね。

 汁にごくごくうすーくとろみがついた状態で、細かく砕け散った豆腐がふわっと舞います。油っけを一切使っていないにもかかわらず、鯨汁を連想するような濃厚さがあります。

 これは、風邪引いてる時なんかに飲んだら栄養もあるし、温まっていいんじゃないでしょうか。

 さて、今回の豆腐料理は、失敗か、成功か、それが問題です。美味しかったので成功ってことでいいですか?

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豆腐百珍:草の八杯とうふ

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七 草(さう)の八杯とうふ 太温飩(ふとうとん)にきり醤油に酒しほの烹調(かげん)にてかくし葛つかひおろし蘿蔔(たいこん)おく ○真の八杯とうふは妙品[八十一]に出(いで)たり

 草のというのは本格に対する簡略版でしょうか。豆腐百珍で「草の」がついたら「真の」もあります。真の八杯豆腐は次のようなものです。

八十一 眞の八杯とうふ きぬごしのすくひ豆腐を用ひ水六杯酒壱杯よく烹沸(にかへし)後(あと)に醤油壱杯入またよくにかへしとうふを入る烹調(にかけん)[九十七]湯やつこの如し擦大根をく

 これを読むと、八杯豆腐という名前の理由がわかります。水六杯と酒一杯を煮きって、アルコールを飛ばしてから、醤油一杯を加えるので、合計八杯です。草の八杯豆腐も、名前が八杯なので、味付けはこのとおりにしたいと思います。

 ところで、これだけ見ると、真の八杯豆腐には調味料の割合が書いてあるくらいで、草と大差ないように見えます。作り方が同じだったら、真も草もないわけですからちょっとおかしいですね。そこで「湯やっこ」の煮加減にせよと書いてあるのでそっちも見てみます。

九十七 湯やつこ 八九分の大骰に切か又は拍子木豆腐とて五七分の方長(かくなが)さ壱寸二三分の大きさに切をき ○葛湯を至極ゆだまのたつほど沸たゝし豆腐を壱入れ蓋をせず見てゐて少しうごきいでゝまさにうきあがらんとするところをすくひあげもる也 既にうきあがればはや烹調(かげん)よろしからず其あんばい端的にあり尤器をあたゝためおくべし…以下略

 湯やっこは葛湯の中で豆腐を煮るのですが「浮き上がりそうになったらすくい上げる」という絶妙のタイミングを要求するようです。

 真の八杯豆腐は、水八杯、酒一杯、醤油一杯の割合で作った汁に、上記のように絶妙の煮加減でひきあげた豆腐を入れろと言っているようです。

 真に対して草は簡略版と解釈するならば、もっと手順を簡単にしないといけません。そこで

1. 水6 + 酒1 を沸騰させてアルコールを飛ばす
2. 醤油1 を加える
3. 葛粉(または片栗粉)でとろみをつける
4. 太いうどん状に切った豆腐を入れ、一煮立ちさせる
5. 大根おろしをトッピングする

こんな風にしてみました。別の解釈も成り立つとは思いますが、なるべく日常に取りこめるよう簡単にしたいと思います。

 さて、この割合で味付けすると想像よりもしょっぱくなります。写真では汁をなみなみと入れてしまいましたが、もっと少なくして、大根おろしと豆腐をからめて、つるんと食べる感じにしたほうがいいと思います。

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豆腐百珍:青海とうふ(せいがいとうふ)

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四十一 青海とうふ 絹ごしのすくひ豆腐を葛湯にて烹調よくし ○別に生(き)の煮かへし醤油をこしらへをき出しさまに碗中へさし醤油にして青海苔を焙(ほいろ)にかけいかにもよく細末(さいまつ)しふるひにかけたるをぱっとをく也

 これも湯豆腐の一種ですね。葛湯で煮た豆腐に、生の煮返し醤油をさして、青海苔を粉にしたのをぱっとふる、という感じでしょうか。

 葛湯は片栗粉で代用していいと思います。お湯に水で溶いた片栗粉を流してとろみをつけ、その中で豆腐を煮ます。

 ここで使う豆腐は絹ごし豆腐です。オリジナルのレシピにある「すくい豆腐」は「汲み上げ豆腐」のことですが、普通の絹ごしで問題ないと思います。

 生の煮返し醤油は、水と砂糖を混ぜて煮詰めたものと醤油を混ぜて、醤油には火を通さずに数日寝かせたものです。作るのは大変なのでめんつゆか何かで代用するといいでしょう。

 青海苔の粉は市販されているものを使えばいいです。

 湯豆腐の薬味として青海苔を使うのは、現代ではあまりない発想ですが、やってみると香りがよくて想像より似合います。気に入って三回くらい作りました。

 ただ、このレシピだと豆腐を煮る時に使ったとろみのついたお湯が大量に余ってしまいます。

 そこで考えたのですが、卵スープのようなとろみのついたスープをあらかじめ作っておき、そこへ絹ごし豆腐を入れます。碗にスープごとよそい、最後に青海苔をたっぷり置く。これならスープも呑めますから一石二鳥ではないかと。出汁は中華スープのもとでもいいし、海苔と中華があわないと感じるならかつお節でもいいですね。

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 写真はやや失敗しました。青海苔を汁に混ぜたほうが海のように見えるかと思ったのですが、見た目が最悪になってしまいました。でも味的には成功です。海苔とのコンビネーションを考えて出汁は韓国の牛肉ダシダを使いました。

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豆腐百珍:茶豆腐(ちゃどうふ)

八十二 茶豆乳(ちやとうふ) とうふ十挺に上々の茶壱斤の分量(つもり)にて茶を煮いだし沸(にへたち)たる所へとうふの羅皮(ぬのめ)をさりて入れよく烹て茶色に染るを別に茶を烹て出ばなの所へ入れなをすべし さて茶をしぼり ○煮かへしの稀醤油(うすしやうゆ)花鰹脯山葵のはりをおく又山葵味曾よろし ▲山葵味曾の製はみそに白胡麻胡桃よくすり合せをき用るとき擦山葵入るゝ也 ○又胡椒みそもよし

 豆腐百珍には豆腐をさす表記がいくつかあります。「とうふ」「豆腐」「豆乳」「菽乳」など。おそらく意味には違いがないと思います。特殊なものを要求する場合には「絹ごしのおぼろ」「焼き豆腐」など、きちんと指定がありますから。

 というわけで、この場合の豆乳も、木綿豆腐だと解釈します。また布目を取り去れと書いてあるので絹ごしではないでしょう。

 手順は、豆腐を濃く煮出したお茶で煮て色をつけ、香り漬けのために別途用意した美味しく入れたお茶に入れ直し、お茶を切ってから煮返し醤油か山葵味噌をつけて食べる、となります。湯豆腐の一種ですね。

 さっそくやってみたのですけど、
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……うーむ、色がつかない(笑)

 豆腐をちょっとやそっとお茶で煮ても色がほとんど付きませんでした。豆腐ごときに長時間ガスを使うのはもったいないので、5分加熱したあと火をとめて、お茶の中に豆腐を放置してみたのですが、ほんのすこし緑色にしかなりません。お茶はかなり濃く出したつもりです。

 オリジナルレシピでは、豆腐の布目を取り去れとありますが、ここでは省略して大きめの賽の目に切りました。切り口よりも布目のほうに色が濃くついてしまうのも拍子抜けです。

 レシピに「とうふ十挺に上々の茶壱斤(600gくらい?)」とあるので完全に商売用でしょうし、もしかすると何時間か煮込まなくてはいけないのかもしれません。

 写真で豆腐に添えたのは、味噌に青海苔を混ぜて作った青味噌に、胡桃(くるみ)と山葵(わさび)を擦り入れた青山葵味噌です。



用語解説:煮返し醤油
 醤油に砂糖を混ぜて沸騰させたもの。本格的にやるなら煮返したあとに瓶に入れて数日間熟成させます。

 豆腐百珍には生の煮返し醤油(きのにかへししやうゆ)も出てきますが、こちらは砂糖を水で溶かしてよく加熱し、水あめ状になったのに醤油を加え、醤油には火を通さないやり方です。

 ご家庭でこんなまねをしていると大変なので、寝かせる部分を省略するか、麺つゆやすき焼きのたれを使うなど臨機応変に対応します。

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