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豆腐百珍:今出川豆腐

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三十九 今出川とうふ 昆布をしき鰹脯(かつほ)のだし汁と酒しほとにて烹ぬく也 中ほどより醤油さし烹調しかくし葛をひき碗へよそひてみ胡桃(くるみ)の碎きをふる也

 今出川というのは京都の地名でしょうか。今出川の料亭か屋台の名物料理といったところかと思います。」出汁で煮て醤油で味付け、砕いた胡桃を振りかける」と、非常にシンプルな調理法です。

 写真のものには出汁をとるのに使った昆布を色紙に切って添えました。豆腐が煮崩れないよう弱火でことことやると、昆布もいい具合に煮えて美味しくなりました。

 聞きなれない用語があるので解説しておきましょう。

酒しほ
 調味用に使う酒のこと。酒だけを使う場合と、少量の塩を入れる場合があります。

かくし葛をひく
 「葛をひく」という言葉には 1. 材料に葛粉をはたいて茹でることで葛のコーティングを作ること。つるんとした食感になる。 2. 水で溶いた葛粉を汁にいれ加熱することでとろみをつけること。この通りの意味があるのですが、ここでは2の意味にとって、なおかつ「隠し」なのでごく薄く、とろみと感じない程度にしました。

 なお、豆腐百珍のレシピでは、とろみや繋ぎとしての澱粉に葛粉を用いていますが、とろみ漬けならば片栗粉で代用しても問題ないと思います。

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 ひとことで説明すると味のついた湯豆腐です。とても上品な感じに仕上がりました。

 よくわからないのはトッピングの胡桃の存在理由です。あればあったら不味くはないのですが、特別美味しくなるわけでもありませんでした。

 しかし胡桃以外に何をトッピングすれば似合うかというと思いつきません。味噌ではやぼったいし、柚子では主張しすぎるし。胡桃でなければ白すり胡麻かとも思いますが、これまた振りかけたところで美味しくなるかどうかは微妙なところでしょう。

 胡桃はお菓子作りの材料コーナーか、おつまみ用のナッツ売り場にあると思います。興味のある方はお試しください。

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豆腐百珍:麺豆腐

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七十四 菽乳麪(とうふめん) [十]かみなり豆腐の下に出たる碎豆腐(くだきとうふ)の如くし青菜の微塵剉(みぢんきざみ)と豆腐と等分に油ニ 而炒つけたるをみづを入れ烹て ○索麪(そうめん)を少しこはめに瀹(ゆでゝ)よく洗ひをきたるをうちこみ醤油の和調(かげん)する也

碎豆腐というのはこれです。

豆腐水をしぼりよくつかみくづし青菜を微塵に剉(きざ)みとうふと等分にして油をよく煮たゝせ先(まづ)とうふを入れよくかきまわし次に青菜を入れ又よく攪し(かきまはし)醤油にて味つくる也 十挺(てう)に油二合あまりの分量也 是を碎きとうふといふ

 つまり「水切りした豆腐を手でつかみくずし、油で炒めたところに、みじん切りの青菜を入れてよく混ぜ、固めに茹でた索麺を入れて、よく混ぜて醤油で味をつける」ですね。豆腐入りのソーミンチャンプルーでしょうか。豆腐は砕けてしまうので存在感が薄く、主役は索麺になります(それにしても写真は麺を入れ過ぎですが)。

 索麺を炒める手法は沖縄料理が流行ってから普及したと思うんですが、江戸時代にはすでに索麺をチャンプルーにして食べていたようです。油が高価だったでしょうから、庶民の家では茹でて食べ、美味しいものを食べ飽きた人がいく料亭でこんな食べ方をしたのかもしれません。

 なお写真のものにはアレンジで出汁がらのかつお節を入れてあります。

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豆腐百珍:雷豆腐

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十 雷とうふ 香油(こまのあぶら)をゐりて豆腐をつかみ砕(くづ)して打入れ直(ぢき)に醤油をさし調和(かげん)し ○葱白(ひともとしろね)のざくざくおろし大根おろし山葵うちこむ ○又はすり山椒もよし ○南京とうふともいふ ○又水気をよくしぼりて 右の如くするを黄檗(わうばく)とうふともケンボロ豆腐ともいふ[四十]に出たる黄檗豆腐と製少しちがふなり 一説なり 又隠元とうふともいふ 

 豆腐を炒める時にばちばち言うのが雷鳴のようなので雷豆腐。これは今も同じ名前で同じような作り方をする料理があります。昔のレシピには山葵(わさび)が入っているが特徴ですね。

 昔のことなので、山葵は自分ですり下ろしたと思います。ここではチューブ入りの山葵を使いました。辛いかなと思ったら、火を通すとからみがとんで、遠くほのかに山葵の香りがするという、サッパリした味になりました。これは悪くないですね。

 レシピには「すり山椒もよし」とあります。山葵の代わりに山椒を入れると麻婆豆腐のようになると思います。

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豆腐百珍:苞豆腐(つとどうふ)

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三十八 苞とうふ とうふよく水をしぼり醴(あまざけ)をすりまぜて棒の如くとりて竹簀(たけす)に巻き蒸して小口切にす

 これはやや失敗でした。指示では豆腐につなぎを入れてないのに、葛粉を入れるものだと思い込み、代用品で片栗粉を入れてしまったのです。甘酒もなかったので酒粕を溶いたのに砂糖を入れました。これじゃ三重に間違ってる。あとで作り直してみようと思います。

 味のほうはまあまあです。レシピ通りにやっても甘くなるはずなので、デザート的なものなのかも知れないし、これをさらに炙って味噌をつけ、田楽のようにするのかもしれません。

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豆腐百珍:結び豆腐

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四 むすびとうふ 細く切り醋(す)にて浸けていかやうにもむすぶへし よく結びて水へ入れ醋気(すけ)をさる也 調味(てうみ)このみしだひ

 酢につけろというのは豆腐のたんぱく質を固くして扱いやすくしてるんでしょうか。最後に水で酢をぬいてるので味つけではないってことですね。

 昔の料理書には分量や時間がありません。そういうのを書き記すようになったのは明治以降だと聞きました。計らずに作るので料理の下手な人はよく失敗していたそうです。料理が不味いことを嘆いた福沢諭吉*1が、海外で分量つきのレシピを見て日本にも導入しようと啓蒙したのが最初だそうです。

 『豆腐百珍』は江戸時代・天明2年(1782年)の本なので、当然細かい指示がありません。酢につけろとはあっても何時間つければいいのかわかりません。

 とりあえず一時間くらい浸けてみたんですけど、うーん、まあ、何もしない時よりも強くなってるけど「いかやうにも結ぶへし」と言うほど自由じゃないですよ。酢気を抜くのはもっと大変。一体何時間水にさらせば酸っぱくなくなるのか……苦労してできあがったものは、写真のようにどうでもいいものです。もっと意外な結び方ができるようじゃないと手間ひまをかける意味がないですね。

 なお『豆腐百珍』は料理を尋常品・通品・奇品・佳品・妙品・絶品に分けて、結び豆腐は尋常品に分類しています。常に用意しておいて何かに使いなさいということでしょうか。これだけで食べるのではなく、飾りにするか、すまし汁の実にするかってところでしょうね。

*1:うろおぼえなので漱石だったかもしれません。とにかくそこいらへんの文化人が最初にやりはじめ、当時の雑誌だか新聞だかに料理のレシピを連載してたらしいですよ。たぶん諭吉です。ソースはすっごく大昔の「昼は○○思いっきりテレビ」今日はなんの日(ふっふ〜)のコーナー。

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