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今読んでる古文書『増補 元三大師御籤繪鈔』(質問付き)

 古文書の解読をやってます(自己流で)。師匠がいないのでどーしょもないことにしょっちゅうつまずいてます。主に書物になったものを読んでいて、手書きの書状などは不得意、というかまるで読めません。

 得意分野は養蚕関係、妖怪関係などですが、それらを読みこなすためにいろいろ読むべきだと思い、興味があればなんでも読みます。

『増補 元三大師御籤繪鈔』

 今読んでいるのは『増補 元三大師御籤繪鈔』です。底本は早稲田大学古典籍総合ベースで閲覧できるテキストです。
http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/bunko06/bunko06_00249/index.html

 内容は、元三大師が作った(と言われている)おみくじの写し(鈔)です。最初に何ページか、元三大師が誰なのか、おみくじはどのように引くべきか、などの解説があり、続いてくじそのものの写しになります。

 写しは下の絵のような決まった形で第一から第百まであります。
ファイル 1761-1.png
A 番号と吉凶(大吉・凶など)
B さし絵
C 漢詩
D 漢詩の内容説明
E 個別の運勢。▲ではじまるのは全員に対するお告げで、○で始まるフレーズは職業や社会的な立場ごとのお告げになっている。

たとえば「第一大吉」はこんな内容

http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/bunko06/bunko06_00249/bunko06_00249_p0005.jpg
↑原典はここの左側半分

●は読めない文字
[ ]でくくってあるのは自信がない文字
読みやすいように▲と○ごとに改行をいれてあります。


第一大吉

B(さし絵)

C:D
七寳浮圖塔:七ほうをちりばめたるたうがうかびあらはれたるてい也たうのいみやうをふとヽいふ也
髙峯頂上安:たかきみねのうへにたうをたてたらばたつとく見ゆべしとなり
衆人皆仰望:しよにんの目にさへぎりひろかりかがやきみなあをぎのぞみてたつとぶ也
莫作等閑看:おろそかにおもひて此たうを見る事なかれしんじつにたつとく見よと也ふしんふしんなればあしき事とみえたり


▲此みくじにあふ人はてんとうをしんじてよし日まち月まちかうしんなどまつべし
○判曰ぶしかほうこう人ならばりつしんすべし[お]しみなくゆだんしたらば又しそんじあるべし
○しゆつけはくわんゐにのぼるかよきてらなどもつかたつと[ば]るべし
○女人はわれよりうへのつまとなるか又人のつまならばおつとの身の上よくなるべし子をもふけば男子也●[も]ちは主人のめにとまりりつしんすべし
○人の子ならば末子なりともそうりやうのかとくをとるべし
○人の弟子はしせうの引たてにてよき事あり
○町人あき人は利を得てはんじやうすべし
○志よく人はほまれをあらはす
○百せうはでんぢをもふけぢと[うよう]めぐみあり
○すべて物事十ぶんによして悦をつかさどる
▲やまひ事ほんぶくすべ少しなが引べし
▲よろこび言十分やうすよし
▲まち人おそししあはせよし
▲そせう事十ぶんよかれどもらちあかぬ事あるべし
▲うせものの出がたしのちのちのちはわ[が●ヽう]へるべし
▲どうぐはかなものるいいとるいやきもののよろしき物也
▲かいものはふみこんでかいとるべしかいとりてのちに利をうべし
▲屋つくりわたまし十ぶんによし
▲いひぶんあらそひならずかつべしあまりほこりたらばかへつてまけになるべし
▲いきしにはしすべし七ほうふとのたうにのせはたてんがいにておくる心あり
▲たびたちよしへやゆだんあるべからず

# かうしん→庚申(こうしん)
# ぶしかほうこう人→武士か奉公人
# りつしん→立身(りっしん)
# しゆつけ→出家(しゅっけ)
# くわんゐ→冠位(かんい)
# そうりやう→惣領(そうりょう)
# しせう→師匠(ししょう)
# やまひ→病(やまい)
# しあはせ→仕合わせ→幸せ
# そせう事→訴訟事(そしょうごと)
# わたまし→移徙/渡座、引っ越しのこと
# いひぶんあらそひ→言い分争い

 句読点がないこと、拗音に小さい文字を使わないこと、濁音・半濁音に゛や゜をつけない(ついてることもある)ことに気づくと高そうに見えるハードルがずずっと下がるはず。

解読初心者の練習用に最適

 おみくじなので、書いてあることはたかが知れており、読めない文字に出会っても類推しやすいです。また、各ページごとに完結しているので毎日少しずつ読むのにちょうどいいです。

 ただ、どのページもほとんど同じことが書いてあり、何ページか読むと「これを続けても新しいことを覚えないのでは?」となりますが、そこから先は反復練習だと思って続けると、めちゃくちゃ古文書に慣れると思います(というのを今身をもって体験中)。

 そういうわけで、くずし字解読初心者の練習用に適した本だと言えます。

教えて!!(ここからが質問)

 で、毎日1ページずつ読んでいるわけですが、簡単とはいえ読めない部分がけっこうあるんです。一回しか出てこないようなところはひとまず無視するとして、定型文として繰り返し出てくる場合はつぶしておきたいものです。

第二前凶後吉>人のでし●代又はしんるいきやうだい
第三前凶後小吉>人の弟子●代家のこしんるいきやうだい
第四吉>弟子●代しんるいきやうだい
第五凶>人の弟子●代いゑの子しんるいきやうだい

Q1:こんな感じで繰り返し出てくる「●代」の●に入るのはなんという文字ですか?

第三前凶後小吉>しよく人は[上●]なりとも
第四吉>しよく人は[上●]の名をとるべし
第五凶>しよく人は[上●]なりとも

Q2:しよく人は[上●]の●に入る文字はなんですか?後ろに続くフレーズからして「上●」は良い意味だと思います。

 Q1とQ2に入る文字は極めて似ているので同じ文字かもしれないです。原典を見たい方は最初のほうに書いたURLから該当箇所を探してみてください。部分的にキャプチャして貼ったら早いでしょうが、画像の使用は事前に許可をとってほしいと書いてあるし、前後を読まないとわからない可能性もあるのでよろしくお願いします。

↑の答え

 わかりましたわ。Q1も2も同じ漢字でした。

1. ●代
2. 上●

この●に共通する漢字で、2は現代でも日常的によく使う単語、1は時代劇にしか出てこないかな。っていう単語。原典のくずし字も奇麗に書いてあるのでフツーに読めますね。ぱっと思いつかなかっただけでした。

 誰も興味ないだろうし、答えは書きません。まかりまちがって検索かなんかでたどり着いちゃった方で「そこ自分もひっかかってるんだよ!」ってな方は頑張ってみてください。


元三大師御籤絵鈔

タグ:古文書解読

コメント一覧

chappy (11/18 09:23) 編集・削除

私と同じ趣味の人が居るとは!
初めまして。
早稲田電子ライブラリーと出版社は違うのですが、福田屋勝蔵版の原本を買い、通勤途中に読んでます。
江戸くずし字は初心者なので、結構苦労してます。
gabotyan

珍獣ららむ〜 (11/18 10:08) 編集・削除

chappyさんこんにちは!
くずし字の解読は読書に頭の体操を足したみたいですよね。
原本を買って読まれてるなんてうらやましい。
わたしは金欠なのでもっぱらネットで無料公開されてるデジタルアーカイブに頼ってます。
これからも頑張ってください!
gabotyan

ブラックジャックばりに自分の腹を自分で手術した男の話

 手塚治虫の名作『ブラック・ジャック』を知っていますか?あ、いや、知らなくても知らないって言わないでください。説明面倒くさいから(笑)!

 知らない人のためにかるーく説明すると、ブラック・ジャックは天才外科医なんだけど残念ながら無免許で、でも世界のあっちこっちで訳ありの患者の治療をひきうけて、一生かかっても払い切らないような治療費を要求してまわってます。

 彼の技術がどのくらい天才的かっていうと、馬の脳を人間に移植したり、摘出した奇形嚢腫を人間の形に整形して育てたり、鏡を見ながら自分の腹を手術するという離れ業をやってのけたりするわけです。

 あれ、面倒っていいながらけっこう説明しちゃった。まあいいか。

 で「自分の腹を手術する」っていうやつ。これね、いくらなんでも漫画でしょって思うわけ。だって鏡を見ながら手術するんですよ?左右逆なんだから。いくら天才だってそんなの無理でしょって思うわけですが、

なんと、ほんとうにそんな手術をやってのけた人が存在するらしいのです。ぜんっぜん関係ないことを検索してて、偶然みつけました。

 その人はレアニード・イヴァーノヴィチ・ラゴーザフ(Леонид Иванович Рогозов)という旧ソ連の医師でした。1960〜1961年に南極探検隊に医師として参加しましたが、滞在中に虫垂炎からくる腹膜炎で、手術しないとまずいんじゃないのってな状況になりました。# 名前の発音は「レオニド・イワノヴィチ・ロゴゾフ」とかのほうが日本語として通りがいいかもしれないです。

 ところが基地内には医師が彼しかいません。悪天候で他の基地などに助けを求めることもできませんでした。そこで自ら手術する決意をします。腹部に局所麻酔をして、気象学者などの手助けを借りながら、ややリクライニングするベッドの上で鏡を見ながら自分の腹を切ったそうです!

 手術は約二時間かかりましたが成功し、彼は二週間で職務に復帰したそうです。その後、帰国してからも医師として活躍し、2000年に66歳で亡くなったということです。

◎Leoniv Rogozov, el medico que se operó a sí mismo.|Tejiendo el mundo(スペイン語)
http://tejiendoelmundo.wordpress.com/2010/01/08/leoniv-rogozov-el-medico-que-se-opero-a-si-mismo/
 最初にみつけたページはこれです。手術中の写真があります。白黒写真なのでグロくはないと思います。

◎Leonid_Rogozov|Wikipedia(英語)
http://en.wikipedia.org/wiki/Leonid_Rogozov

追記

 自分としては、すごい発見のつもりだったんですが、すごさが伝わらないかもしれないので追記しておきます。

 ラゴーザフが自分で自分の開腹手術をしたのは1961年ですから、もちろん手塚治虫がブラック・ジャックを書く前の話です。たぶんですけど、手塚はこの話を知ってたんじゃないでしょうか。

 ブラック・ジャックが自分の腹を手術するというのが、たしかピノコを養子に出そうとするエピソードが最初だったと思います。

 ピノコをおっぱらった後に、ブラック・ジャックは腹膜炎で寝込んでしまうのですが、化学療法で回復が見込めないので自分で手術しようとするんです。シチュエーションからしてソ連の南極基地での出来事と同じです。

 つまり、ラゴーザフの自分回復手術がブラック・ジャックのエピソードの元ネタなんじゃないでしょうか。

 今のところまだ「おそらく」の域を出ませんが、ラゴーザフのことを報じる日本の新聞記事かなにかが出てきたらアタリだと思います。

関連記事

◎鯨に飲まれた男の話
http://www.chinjuh.mydns.jp/cgi-bin/blog_wdp/diary.cgi?no=1433

タグ:びっくり偉人伝

角大師は如意輪観音の夜叉モードかもしれない?

 今日もしつこく角大師について考えよう!

◎突然だけど角大師のお札のことを考えてみた
http://www.chinjuh.mydns.jp/cgi-bin/blog_wdp/diary.cgi?no=1754

 一昨日は↑の記事で与太話を書いたわたくしですが、今朝になって突然重要なことに気がつきました。

 『三元大師籤絵抄』に「元三大師は御本地によいりん觀音にてましませば」とあるとおり、慈慧大師(三元大師)は如意輪観音の化身だと言われているのです。

 そこであらためて、角大師(三元大師)のお札を見ると、
ファイル 1757-1.jpg
右手(向かって左の手)を床というか、座面について、左手は膝に置いてます。そんでもって右膝を立てて座っているみたい。

 これ、もしかして如意輪観音の座り方なのでは?

 如意輪さんは、だいたい左膝(向かって右膝)を立てて座ってる。そんでもって腕が六本くらいあって、いろんな持ち物を持ってるんだけど、左腕のひとつを座面について体をささえてる。

ファイル 1757-2.jpg
 いろんな作例はあるだろうけど、おおむねこんな感じ。

 ここから、持ち物がある手を消すとこうなる。↓
ファイル 1757-3.jpg

 これを左右反転するとこうなる。↓
ファイル 1757-4.jpg
 ほら、角大師と座り方がおんなじ!

 角大師が如意輪さんと左右が逆なのは、木の板に彫ったのを紙に刷ったので逆転したか、如意輪そのものではなく化身であることをあらわすために、わざと逆にしたかってところじゃないでしょうか。

 これまでの話を整理すると、

・角大師の手足が滑稽なまでにクネクネしているのは、膝をたてて、手を座面についてる姿を平面的に表現しようとして、大胆にデフォルメされたから。

・なんで片膝たてて片手をついてるかっていうと、三元大師が如意輪観音の化身であることを、ポーズを同じにして表現しようとしてるから。

・一般的な如意輪観音像と角大師像が左右逆のポーズなのは「木の板に彫って紙に刷った時に逆転した」または「仏そのものでなく化身であることを表現した」のどっちか。

…ってな感じです。

[追記]

 如意輪観音だと右手でほおづえついてますが、ただの観音様だったら膝に置いてる作例もけっこうありまして、

神奈川県・清雲寺の滝見観音
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/p632190.html

伊豆の国市・北條寺の観音菩薩半跏像
http://izu-np.co.jp/feature/news/20130414iz0003000126000c.html

鎌倉市・東慶寺の観音菩薩半跏像
http://www.tokeiji.com/heritage/mokuzou-kannon/

などなど、立ててる膝も右だったり左だったり様々ですが、ほおづえをつかずに手を膝に置いてる例がたくさんあるみたい。

 ようするに角大師は観音様ってことでファイナルアンサー?

タグ:寺社幻獣 おまもり

山口敏太郎の妖怪博物館ってところに行ってきた

 正月休み中に妖怪博物館ってところに行ってきました。去年の秋くらいにお台場に出来たらしいんですよ。河童のミイラとかが展示されてるらしいですぞ。

https://www.odaiba-decks.com/?mode=shop&page=detail&code=278
↑ここですここここ、デックス東京ビーチの、台場一丁目商店街の中にできたんです。わたしが行った時は入館料値下げ中で大人1人400円とかだったかな。

 見せ物小屋みたいな感じにしてあるのかなあと思ったら、そういうの入り口だけで、中はどっちかっていうとエロ抜きの秘宝館?かなり狭くて、展示品は大した数はなかったです。400円くらいなら文句ないけど、もし800円とられたらウキーッって感じだったかも(笑)

 展示品は狭い部屋にごちゃっと置かれているだけ、説明は小さな紙にプリントアウトされたのが置いてあるだけってな状況で、かなりチープ。でもひとつひとつ見ていくと、どれもそれなりに面白いものばかり。妖怪関連の民芸品、京都の空井戸から出てきたという呪いの人形、河童のミイラ、ジェニーハニパー、ジャッカロープのはく製、チュパカブラのミイラ…などなど。「○○を細工して作ったものと考えられる」などと冷静にコメントがついていて、見せ物小屋やお化け屋敷ではなくて、あくまで珍品コレクションの展示なんだな、という感じ。

ファイル 1756-1.jpg
▲ジャッカロープ:北米の未確認生物。角の生えた兎で、人の声真似が上手だと言われる。ウィスキーが大好物で、その乳は万能薬だとも。目撃できたら幸運が訪れるなんてことも。ただしネイティブアメリカンの伝承には登場しない。もちろんこのはく製は、普通の兎に鹿の角をくっつけただけなんだけど、こういうのが幸運のマスコットとして今でも作られてるんだって。

ファイル 1756-2.jpg
▲チュパカブラのミイラ。チュパカブラというのは南米の未確認生物で、山羊(cabra)の血を吸う(chupa)と言われてる。その姿は、背中にトゲがあって二足歩行するとも、毛のない犬のような姿で四足歩行だとも言われていて一定しない。時おりチュパカブラのものとされる死体が発見されて話題になるが、そのほとんどは皮膚病で毛の抜けたコヨーテだと言われてて、写真のミイラもコヨーテじゃないかってことでした。

 なお、この二点に関しては撮影が許可されてました。ほかはダメだって。

 展示品はコレクションのごく一部だそうです。面白いので時々入れ替えてほしいですね。わたしこういうの嫌いじゃない、っていうかかなり好き。300円のパンフレットも買っちゃった。入館料はずっと値下げしたままでいてくれたらまた行きたい(笑)

ファイル 1756-3.jpg
▲パンフレット。表紙のお面は笑い出すと言われているいわく付きのお面らしいですよ。

タグ:不思議

ふたつの『元三大師御鬮繪抄』の如意輪真言を読み説いてみる

 前の記事の続きです。ここ見てるほとんどのみなさんは興味ないしもういいって感じじゃないかと思うんですが、気づいちゃったんだもの仕方ないんです。

 ウィキペディアに『天明改正 元三大師御鬮繪抄』の一部があります。これ>http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Ryogen1.JPG

 早稲田大学の古典籍総合データベースに、↑の別バージョンとおぼしき『増補 元三大師御籤繪鈔』があります。これ>http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/bunko06/bunko06_00249/index.html

 如意輪真言の部分をつきあわせてみると、こうなりました。

 左:『天明改正 元三大師御鬮繪抄』1785年 仙鶴堂発行
↓右:『増補 元三大師御籤繪鈔』発行年不明 北林堂
ファイル 1755-1.jpg


・『増補 元三大師御籤繪鈔』には「をん」で始まる真言が、梵字とふりがなで2件掲載されている。真言A、真言Bとする。

・『増補 元三大師御籤繪鈔』の真言Aは綴りがまとも。/真言Bもほとんど正確だけど、チンターマニのニだけなんかアヤシイ。

・真言Aの意味は「オーン、与願者蓮華尊よフム」

・真言Bの意味は「オーン、蓮華、如意宝珠、焔光、フム」

・『天明改正 元三大師御鬮繪抄』は、真言Aを梵字とふりがなで書いたつもりでおかしくなっている(半端に梵字を読めてる人がうろ覚えで書いたみたいになってる)。/また、真言Bは、なぜか梵字が省略されており、発音だけを漢字とふりがなで写している。


 だから何って言われても困る。気づいたから書いただけ!

 以上です。

タグ:古文書解読