▲一本だけ立ち枯れた木。時代劇みたいなので実は気に入っています。水元公園の旧緑の相談所付近。
実はこのすぐ近くの歩道に幹がふた抱えくらいある大木の「切り株」があったんですけど、最近ひっこ抜かれて美しく整備されてしまいました。あんなに大きいと切り株だって貴重な気がしてたんだけどね。
▲エゴノキ、ただいま満開。これも水元公園。
▲水元公園の菖蒲田。国産のハナショウブは6月です。ドイツアヤメやヨーロッパから持ち込まれたキショウブはもう咲いてるんですけどね。
▲これがドイツ系(たぶん)のアヤメです。堀切菖蒲園にて。堀切も見ごろは6月です。接写すると沢山咲いてるように見えますが、こういうのはごくごく一部ですから。
▲これがキショウブ。もとはヨーロッパのものだそうです。日本のアヤメ、ハナショウブ、カキツバタのたぐいは、白、青、紫はあるものの、黄色はありませんでした。ところがヨーロッパにはキショウブがあるので、ドイツ系のアヤメなどには日本にない色の花があります。日本でも新しい色に挑戦しようと持ち込まれたのがキショウブだそうです。ところがキショウブは日本のアヤメ類より先に咲いてしまうので、交配にはそれなりの苦労があったと……ええとどこで読んだんだったかな。
キショウブ自体はあまり品種改良が進んでいないので、花がほっそりして清楚な印象があり、個人的にはかなり好みです。が、繁殖力が強く、川原などで野生化してしまうようです。
日本花菖蒲教会・編『世界のアイリス』によると、日本でキショウブを使った品種改良が成功したのは1962年だそうです。それから20年後の1080年前後、わたしは伊勢崎の広瀬川沿いにキショウブが沢山咲いているのを見ました。
野生化してるのはキショウブばかりで、日本に昔からありそうなカキツバタなんかは自生してるのを見たことがありません。軽くヤバいんじゃないかと思うのですがいかがなものでございましょう。
ヒメネスの「プラテーロとわたし」というスペイン語の散文詩の中に、黄花アイリス(Lirio amadillo)という言葉が何度か出てきます。80年くらいの広瀬川のほとりで、土手に咲くキショウブを見ながら、スペインの川辺に咲いているという黄花アイリスは、きっとこんなだろうなと思っていました。その時はまさか本当にヨーロッパからの帰化植物だとは思っていなかったのですけどね。
わたしはプラテーロの痛みにゾッと身震いし、そのとげを抜いてやった。そして、黄花アイリスの咲く小川に、かいわいそうな驢馬をつれてゆき、流れ水の清潔な長い舌で、小さな傷口をなめてもらった。 「12. とげ」
わたしたちは山から、二人で荷物を運んできた。プラテーロは花薄荷(マヨナラ)を、わたしは黄花アイリスを。四月の午後が暮れようとしていた。 「22. 帰り道」
ねえ、プラテーロ、日が暮れたら、こどもたちとおまえとわたしとで、小鳥のなきがらを庭へおろそうよ。ちょうど今は満月だ。かわいそうな歌うたいは、ブランカの真白い手のひらで、青白い月の光に照らされ、黄色っぽいアイリスのしおれた花びらのように見えるだろう。そしてわたしたちは、大きな薔薇の根もとに、それをうめてあげようよ。 「83. カナリヤが死んだ」
小川の水かさがひどくふえたので、夏の岸辺を金いろに縁どる黄花アイリスは、はなればなれになってどっぷり水につかり、流れゆく水に、その花びらの美しさを一枚づつ捧げている…… 「89. アントーニア」
今日の午後、わたしはこどもたちと、<松かさ>の果樹園の、笠形にやさしく枝をさしのべた一本松の根もとにある、プラテーロの墓をおとずれた。墓のまわりのしめた土を、四月が、黄花アイリスの黄いろい大輪の花で飾っていた。 「135. 愁い」
わたしがゆっくりと物思いにしずみながら、おまえのなきがらにやさしく歌をうたう松の木に近づくとき、黄花アイリスの花の前で立ちつくすわたしの姿を、ねえ、プラテーロ、永遠の薔薇の園で、しあわせのおまえが見ていてくれるということを、わたしは知っているよ。土にかえったおまえの胸から、黄花アイリスは芽生えたのだものね。 「136. モゲールの空にいるプラテーロへ」
長南実・訳の「プラテーロとわたし」より引用。同じ人が何回か訳し直しているらしく、本によって微妙に違うんですが、これはノーベル文学賞作家の作品ばかり集めた全集のような本から書き写しました。全文書き写しの修行をしたのは昔のことなので今はもう出版社とかはわかりません(主婦の友社の「ノーベル賞文学全集」だったような気はします)。
◎Lirio amarillo español で画像検索
http://www.google.co.jp/search?um=1&hl=ja&lr=lang_ja&biw=1080&bih=513&tbs=lr%3Alang_1ja&tbm=isch&sa=1&q=Lirio+amarillo+espa%C3%B1ol&aq=f&aqi=&aql=&oq=
Lirio にはユリも含まれるので、黄色いユリの花やノカンゾウの花までヒットしてしまいますけど、日本のキショウブとほぼ同じものがスペインにあるってことはだいたいわかります。
前川文夫『日本の植物と自然』によれば
ハナショウブに近いものは欧州ではキショウブである。花がべた一面に濃黄で美しいが、全体に気品がない。それかあらぬか、向こうでも園芸的には見向きもされない。園芸のほうで幅をきかせているのは、二組みある。一つは求婚イリス群でその改良種がダッチアイリスとして近ごろ切り花によくみかけるもの。外側の花弁の下半分が直線的であるから三枚集まって漏斗状に見える。今ひとつは外側の花弁の足の内側にちょっと歯ブラシを思わせる恰好に毛が密生しているポゴニリスの仲間であって、ドイツアヤメの名で通っている。これには濃艶のものがない。
だそうで、キショウブを品がないと切り捨てている。
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