「家内は千葉県の出身でカジメ取りをやっていたのです」
「カジメという海藻はエキホーソというききなれない薬品になるらしい」
つげ義春『李さん一家/海辺の情景』ちくま文庫より引用
鳥と話ができる不思議な李さんが主人公の家の二階にいつの間にか住み着いてしまうという、なんともつげ義春っぽい謎のお話です。
ここに出てくるエキホーソという薬品ですが、どっかで聞いたことあるなと思ったら、手塚治虫のエッセイにも「エキホス」という名前の薬が出てくるんです。
なんというエッセイだったかは部屋中ひっかきまわせば出てくるはずですが(検索しても出てくるかもしれないけど)めんどくさいので記憶で説明します。もしかすると随筆ではなく『漫画の描き方』だったかもしれないです。
手塚治虫の母親は、よく昔話をしてくれたそうです。しかし、毎晩となればネタも切れて、そのうちお話を創作して聞かせてくれるようになりました。
お母さんがしてくれたお話にエキホスという塗り薬の話が出てきます。その薬は風邪の時に体に塗ると楽になりますが、臭いので嫌われて薬屋さんの棚の奥でほこりをかぶっていました。
ある日、子供が夜中に熱を出しますが、真夜中なので来てくれるお医者さんもないし、町の薬屋さんの戸をたたいて何か薬を売って下さいと頼むわけです。
すると、その薬屋さんは「あいにく今はろくな薬がないけれど、よかったらこれを使ってみなさい。昔からあるものだけど良く効くはずだから」と、棚の片隅からエキホスを出してきて手渡す……
…と、うろおぼえですが、そんな話だったと思います。
つげ義春のエキホーソと、手塚治虫のエキホス。名前が似ているし、同じものなんじゃないかと思うんですが、よくわかんないのはつげの漫画には「カジメ」から作ると書かれている点です。
カジメは海藻ですから、そこから取れる薬品といえばヨードなんじゃないでしょうか。ヨードチンキのような消毒液になるんならわかりますが、風邪の時に体に塗って効くような薬にヨードを入れるものなんでしょうか。
あるいはカジメからヨード以外に薬になる成分が取れるのか、それともエキホーソとエキホスはまったく違う薬で名前が似ているのは偶然とかなんでしょうか。とても気になります。
エキホス・エキホーソとカジメの関係、ご存知の方はご一方を!
なお、エキホスという薬は実在したそうです。手塚の説明のとおり、風邪の時に胸や首に塗る消炎鎮痛剤であるとのこと。塩野義製薬とタケダ製薬が合同でつくっていたものだとか。