前に中之条の博物館で、削り花という小正月のお飾りを見たという話を書きました。
◎不確かな記憶を確かめるべく群馬県中之条町まで行っちゃった話
http://www.chinjuh.mydns.jp/cgi-bin/blog_wdp/diary.cgi?no=1566
この記事を見た方が、わざわざ削り花を送ってくださったんんですよ。中之条でお父さまが削り花を作ってらっしゃるんですって。
もともと小正月のお飾りとして、1月11日に立つ市で売っていたそうなんですが、今は販売はしていなくて、中之条のイベントなどで実演して配っているとのことです。
箱をあけて、わくわくしながら梱包をほどいて、中からでてきた削り花を見たときは、もう、ただただ感嘆の声しかあがりませんでした。とにかく美しいです。メールには「趣味で作っています」と謙遜して書いてらっしゃったのですが、とんでもないことです。本当に名人の手だと思いました。とにかく美しく、ただぼーっと眺めてしまうような感じです。見ていると素直に言祝ぐ気持ちになってきます。
・・・・[追記]ここから・・・・
…と、書いてから、送ってくださった方にメールでお伺いしたところ「父は本当に趣味で作ってるんですよ」と、事情を話してくださいました。なんでも、師匠にあたる方が商売にしていなかったので、お父さまも作った削りかけを市で売ったりしていなかったそうです。現在は定年されているそうですが、以前は仕事場にも道具を持ち込んで、手があくと作っていらっしゃったとか。
それはそれで興味深いことだと思いました。想像ですが、ものすごく昔は自宅で作ったのでしょうし、そうでなくとも集落の中で上手な人にお願いして作ってもらい、お礼として何か差し上げることはあっても、売り買いするようなものじゃなかったのかもしれません。
わたしは中之条の博物館で「削り花を売るボク市は数年前に立たなくなった」と聞いて、伝統が途絶えてしまったのかとガッカリしましたが、ひょっとすると太古の姿に戻っただけなのかなと思いました。
・・・・[追記]ここまで・・・・
そもそも削り花というのはどういうものかというと、ある種の木をナイフで薄く削ったものなのです。削りとってしまわず端だけ残し、花のように、房のように、形作るのです。かんなくずって美しいじゃないですか。あれのもっと、超絶美しいものと言ったら話がわかりやすいでしょうか^_^;
中之条ではこれを「削り花」と言うそうですが、全国的には「削りかけ(削り掛け)」などとも呼ばれていて、冒頭に書いたように、北海道アイヌが神聖なものとして大事にしているし、本州以南でもあちこちの山村で神様に捧げられたり、不思議な力を発揮する道具として用いられたりしているらしいんです。
そういえば昔、こんな記事も書きました。
◎亀戸天神の鷽(うそ)
http://www.chinjuh.mydns.jp/cgi-bin/blog_wdp/diary.cgi?no=568
亀戸天神の鷽替行事で頒布している木彫りの鷽は、尾羽が削りかけになっています(写真の鷽は小さいので、削りかけがあまり目立たないんですけどね)。
これについてコメント欄に興味深い話を書いてくれた人がいました。鹿児島県の大隅あたりで、子供たちが削りかけの長い棒を持って家々をめぐり、その棒で地面をたたいてモグラを退治するんだそうです。毛槍との類似性や、それが雷や交通につながるシンボルだっていう話もちょっと面白いです。
東南アジアにも削りかけの風習があるそうです。かの地では村から村へメッセージを使う伝令者が、緊急であることを伝える印として持っていたり、戦争の際に、果たし状として敵の村に置いてくるなどの使い方をしてたそうですよ。
http://www.tobunken.go.jp/~geino/pdf/kenkyu_hokoku07/imaishi_mukeihoukoku07.pdf
このURLは東京文化財研究所っていうところの資料なんですが、ボルネオ島の削りかけ文化についてレポートされています。
日本は島国で鎖国時代も長かったせいか、他国との文化的なつながりを実感として持ちにくいのです。でも、こうやって削りかけのことを考えていると、北へ、南へ、削りかけでつながっているんだと感じられて、不思議な気持ちになってきますね。
そうそう、この削り花を送ってくれた方のお父さまが、今年の1月11日にも中之条の「つむじ」という施設で削り花の実演をされるそうです。ボク市の伝統は立ち消えた(立ち消えそう?)でも、こういった施設で形を変えて続いているんですね。わたしも行けたらよかったんですが、なんせ突然決まったお伊勢参りの直後でもあって、行けそうもなくて本当に残念です。
http://www.nakanojo-kanko.jp/miru-taiken/tsumuji.shtml
つむじはここです。ここの足湯には何度か入ったことがありますー。なかなかお洒落な空間ですよ。