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古典における地震雲に関する記述

 東洋・西洋の古典における地震雲に関する記述。地震雲という呼称は元奈良市長の鍵田忠三郎氏が発案したもの(『これが地震雲だ~雲はウソをつかない』日中新聞本社1980年刊、現在は絶版)。

凡井水無有一切他故而忽渾,并發惡臭者,震兆也。凡井水滾上,震兆也。凡海水無風而漲,震兆也。凡空中,時不當清瑩而清瑩,震兆也。凡晝中或日落後,天際清朗而有雲細如一綫、甚長,震兆也。凡夏月忽有异常之寒,震兆也。----龍華民(ロンゴバルディ)『地震解』1626年中国

# 一般に井戸の水がなんの理由でか悪臭を発するのは地震の前兆である。一般に井戸の水がたぎり上がるのは地震の前兆である。一般に海水が無風なのにみなぎるのは地震の前兆である。一般に時ならず空が輝くのは地震の前兆である(清瑩を輝くと訳してみたけど、単純に「美しい」とか「澄んでいる」とかかもしれないし、異常に凪いだ状態を言っているかも)。一般に日中あるいは日没後に、天にはっきりした一筋の細くてはなはだ長い雲があるのは地震の前触れである。一般に夏の月に異常な寒さが突然にあるのは地震の前触れである。(珍獣様の適当訳)

海に出ている水夫たちも、風がないのに突然波が高まるとか、衝撃が船を揺するとかするとき、地震を予知し(中略)地震が差し迫ると、晴天のとき、日中でも日没少し過ぎでも、地震の前に薄い雲の筋が広い地域の上に棚引く。井戸の水がいつもより濁り幾分悪臭があるときは、いまひとつの前兆だ。----プリニウス『博物誌』1世紀ローマ 中野定雄・他/訳

# この文の前に井戸の水を組んでいたときに霊感を得て地震を予知する話も見える。

天晴日暖,碧空清淨,忽見黑雲如縷,婉如長蛇,橫臥天際,久而不散,勢必爲地震----『重修隆德縣志』1935年中国

#鍵田氏の『これが地震雲だ』には
> 『一六六三年徳降縣誌』
とある。ネット情報と異なる文字の入れ違いは原文のまま。

# 天は晴れ暖かく、空は青く澄み渡る時、突然、一縷の黒い雲が、寝美のように長く、天に横たわり、しばらく消えないならば、必ず地震。(珍獣様の適当訳)

揺れ動く山のような体をもった雲が、大きな音をたてて稲妻をともない、水牛の角や蜂の群れや蛇のような雲が、雨を降らせる。----『ブリハット・サンヒター』6世紀インド 杉田瑞枝ほか/訳(東洋文庫)

# 上記はインドラの地震の特徴として記されており、この部分だけだと前兆なのか、地震と同時に起こることなのかわからないが、この前に記されているヴァーユの地震に「七日前の姿は」とあるので、前兆と取ってもよさそう。ただし、空が流星で覆われるとか、火が風とともに七日間吹き荒れるとか、おとぎ話のような表現も多く、一般的な地震の予知法としては現実味が薄い。

(丁稚が「地震がきそうだ」と言うのを番頭がしかりとばした夜に安政の大地震がおこったので、丁稚になぜわかったのかとたずねると)わたくしの父は信州の人間で、いつもいっていました。善光寺開帳のときの地震があった日の夕方に、西の方に白雲が霞のようにたなびいて、東のようにはつくねいものような雲がでていた。その夜あの国では大地震になったのです。またしばらくたって、前と同じような雲が東西に出た。これはおそらく揺り返しだろう、というわけで、その雲を見た人たちは家財を広い野原に運び出し、自分たちは竹林に身をひそめていると、はたしてその夜もまた大地震があった。父がこう話していたのを覚えていて忘れませんでしたが、あの二日にその雲がでていたものですから、思わず申してしまいました。----『安政見聞誌』中巻 口語訳は荒川英俊編・著『実録大江戸壊滅の日』より

原文は↓ここの、中巻20/22の左ページ
http://www.jcsw-lib.net/ansei/index.html


# 『実録大江戸壊滅の日』は、『安静見聞録』『安静見聞誌』『安政風聞集』を口語訳したものに解説を加えた好著で、教育社(ニュートンプレス)刊。残念ながら絶版。


 プリニウスの博物誌以外ははてなの人力検索の回答者のみなさんと、このブログへのGoudeauさんのコメントを手がかりに調べたり翻訳を加えたりしたものです。みなさんありがとう。


ついでなので記念に(?)ハードディスクの中のそれっぽい画像を公開

ファイル 318-1.jpg
▲2007年12月21日撮影、水元にて
 青い空にくっきり長いヘビのような雲は地震雲である可能性が高いと鍵田氏は言っている。これなんかかなりそれっぽい。このあたりは空港の近くってわけでもないので飛行機雲なら二本も並んで(つまり二機分も)出るだろうか?

 でも、目立った地震のニュースもなく、代わりに翌日の雨を当てました。


ファイル 318-2.jpg
▲2008年3月16日撮影、横浜にて
 これはかなり拡大したところで、引いた写真は下。ぴったり寄り添って二本の筋雲があるのであきらかに飛行機の両翼が作った雲なんだけど、どうするとこんなぐるぐる雲になるんだか??

ファイル 318-3.jpg


ファイル 318-4.jpg
▲2007年9月12日撮影、水元にて
 やけに真っ赤な夕焼けで、あんまりすごいのでしばらくブログのタイトル画像につかっていたほど。鍵田忠三郎氏によれば、異常な色の夕焼けや朝焼けも地震の前触れと言っていた。今ちょっと日付でググってみたらこの日スマトラ島で大地震が起こっているらしいですぞ。インドネシア西部時間午後6時10分とあるので、日本時間に換算すると午後8時10分であってますか? 夕焼けの写真をとってから丁度二時間後ですね、個人的には「これはスクープか?」という感じ。でも日本の夕焼けでスマトラの地震を予知できるかどうかは疑問。


 ちなみにわたしは地震雲には否定的でもあり肯定的でもあります。大規模な地震の直上でなら、なんらかの気象現象が起こっても不思議ないだろうと思う反面、『これが地震雲だ』で鍵田忠三郎氏が言っているような、中国で観測された地震雲で南米の地震を予知するようなことは、古代人が鳥の声で未来を予知したような占いの一種かなと思います。

タグ:空と雲 変な写真 地震

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  • 2008年05月19日(月)16時03分
  • 自然・園芸

コメント一覧

Goudeau 2008年05月19日(月)22時39分 編集・削除

なるほど「日中でも日没少し過ぎでも」といふあたりがよく合致して居ますネ。元ネタはプリニウスでほぼ間違ひないでせう。さすが珍獣様。

『ブリハット・サンヒター』についていへば、激しい雷のときは地面も震動して居るやうにみえる、といふ観察から、雷と地震を関連づける考へかたのやうにみえます。カミナリさまが季節によつては地面にもぐる、といふ神話伝説が東アジアにありますが、同様の考へかただと思ひますネ。

脱線しますが、私の仮説ではアメノウズメとサルタヒコのカップルは天上世界のカミナリとやや低い中空のカミナリのカミナリ夫婦ではないかとにらんでをります。

珍獣ららむ〜 2008年05月20日(火)09時17分 編集・削除

 プリニウスは絶対何か書いてるだろうからあとで見ようと思っていたので、先に中国資料がでてきて驚きました。

 『ブリハット・サンヒター』は、太古の昔、山々が暴れて大地をふるわせていたので、アチャラ(不動)と呼ばれる大地の女神が「自分の名にふさわしくない恥ずべき状態」と涙ながらに訴えるのを聞いて、ブラフマーがインドラ(雷神)に命じて金剛杖を投げさせ、山の陣営をほろぼした(山がうごかなくなった)と説明してます。ただし、ヴァーユ、アグニ、インドラ、ヴァルナの四神が善悪の果を知らせるために地震が起こるそうです。四神のくだりはあとからとってつけたような感じがするので、もとは雷神と地震を結びつける伝説だったのでしょうね。

Yuzou URL 2009年09月30日(水)22時07分 編集・削除

はじめまして。充実した参考文献とご解説、感服して拝見させて頂いております.
地震国、ニュージーランドの国名 「 アオ テア ロア 」(白い雲の長くたなびく)も、プリニウスの記述に似ていて、意味深長に思えます。

 実は、今日の夕方五時ころ、東の空の端から西の端まで続く、長い直線状の雲が出ているのに気がつきました。
2004年の中越地震の前日にも、同様の雲が現れたので印象に残っています。
いつも外出した時には、こうした雲が無いか、注意していますが、めったに現れません.後で知りましたが、今日はサモアで大地震があったのですね。

 こちらの2007年9月12日記事にも御座いますように、遥か遠くの地震も、雲に現れるのかもしれませんね.

 『ブリハット・サンヒター』の記述ですが、
当方、以前に桜島に滞在しました時、噴火を週二三度見ました。決まって噴煙が黒く雲のごとく立ち上ったかと思うと、その中に稲妻が発生し、大変恐ろしい光景でした.

 また、東南アジアで熱帯のスコールが通過する時も、黒雲と雷鳴が響き渡るのですが、その音と雨量、電光の激烈さは、日本の夕立とは比べ物にないくらい猛烈を極めました。劇的と言ってよいほどものすごいかったです。

珍獣ららむ〜 2009年10月01日(木)17時14分 編集・削除

 Yuzouさんこんにちは。自然現象ってほんとうに面白いです。わたしたちが知らないだけで、現象の中からいろんなことを読み取れるのかもしれないです。

 ただ、謎なのは、なぜサモアの地震なのに、日本に地震雲が出るかってことなんです。震源地の地下で起こっている地質的な現象が空に影響を及ぼすとしても、震源の真上とその周辺くらいじゃないかと思うんです。越中地震については日本なので、日本の上空に変化があってもおかしくはないと思いますが、サモアは遠いですよね。

 もし、Yuzouさんが日本で見た雲がサモア地震の影響だとしたら、サモアではどんな雲が出ていたのでしょうね? 今度、変わった雲を見たら、日本の衛星写真だけでなく、世界広域写真も記録してみてはどうでしょう。

http://tenki.jp/satellite/
↑ここだと、日本以外の場所も見られるみたいですよ。

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