この生姜みたいなやつはキクイモというものです。写真はもうかなり使っちゃったあとのもので、この三、四倍くらいの量で180円でした。
キクイモは名前の通りキク科植物で、根っこ(というか地下茎なのですが)が芋のように塊になる植物です。アメリカ大陸原産なんだそうですが、食用になるのでヨーロッパに持ち込まれて広まったらしいです。
第二次大戦中に食用として栽培されてたそうですが、日本ではあまり受け入れられなかったようですね。野菜として出回り始めたのはここ数年だと思います。
わたしは、このキクイモってやつを、なぜだか子供の頃から知ってるんですよね。古い薬草の本かなにかで読んだんだと思うんですが、心当たりの本を見ても載ってませんでした。どこで見たのかなあ。その本には、芋の代用品だけれど、あまり美味しいものではない、というようなことが書いてありました。
写真も載ってたはずです。たしかキクイモには黄色い花が咲くんです。それを見て当時は「オオハンゴンソウに似てるけど、花びらが垂れ下がらないのね」ってな感じに思ってました。比較対象物がオオハンゴンソウじゃ知らない人のほうが多いでしょうが、群馬にはなぜかオオハンゴンソウが沢山咲いていたので、自分の中ではフツーにそんな比較をしてました。今だと切り花用のミニヒマワリがもっと繊細になったみたいな花とか、コスモスを黄色くしてもっと力強くしたような感じ、とか説明するかもしれません。
というわけで、キクイモ、ジャガイモの代用品、花はきれいだけど、芋はまずい、という情報を擦り込まれて大人になったわけですが、ある時、マロの『家なき子』にキクイモが出てくるのに気づきました。レミがシャヴァノン村の養父母の家でキクイモを育てているのです。
それからまたわたしのだいじにしていた畑の一部には、だれかにもらっためずらしい野菜(やさい)を植えている。それは村でほとんど知っている者のない『きくいも』というものであった。なんでもいい味のもので、じゃがいもと、ちょうせんあざみと、それからいろいろの野菜(やさい)をいっしょにした味がするのであった。わたしはそっとこの野菜をじょうずに作って、おっかあをおどろかそうと思っていた。ただの花だと思わせておいて、そっと実のなったところを引きぬいて、ないしょで料理(りょうり)をして、いつも同じようなじゃがいもにあきあきしているおっかあに食べさせて、『まあルミ、おまえはなんて器用(きよう)な子だろう』と感心させてやろう。
楠山正雄・訳『家なき子』より引用しました(青空文庫に全文があります)。
なんということでしょう。不味いと聞いているキクイモは、マロによればジャガイモとチョウセンアザミ(アーティチョークのことですね)と、さまざまな野菜を一緒にしたような味がするらしいじゃないですか。しかも、母親(養母ですが)を喜ばせようとして育てているのだから、美味しいものらしいですよ?
一体どんな味がするんでしょうね?
というわけで、手に入ったので食べてみようと思います。食べ方は、生でよし、炒めても煮てもよし、だそうです。ジャガイモと違って皮はむかずに使ったほうがよいとのこと。
手始めに生でかじってみたところ、シャキシャキとした食感です。何に似てるっていえばいいんですかね。ヤーコンに似てると思うけど、またそんなわけのわからない比較対象物を持ち出したって困りますよねえ(笑)甘みのない梨っていうか、そういう果物系のシャキシャキ感でしょうか。
買った店では「キクイモの肉ジャガ」をすすめてました。って、なんですかその黒モンブランみたいな料理名は(笑)ジャガイモをキクイモの変えたら肉ジャガじゃなくて肉キクじゃないんですか?あ、いや、ここで芋を省略したら肉と春菊を炊き合わせたみたいになりますね。日本語って難しい!
加熱したキクイモは、おおっ?ぜんぜん食感が違う。皮は加熱しても歯ごたえが残ります。でも実がとてもやわらかくなっていて、皮を剥いてたら煮とけていたかもしれないですね。味はジャガイモにも似ているけれど、あんなにモッサリしてなくて、強いて何に似てるかっていうとカブみたい。カブほどきめ細やかでもないけれど、あんな感じです。
そんでもって、たしかにアーティチョークにも似てるかもね。アーティチョークが日本では貴重品なのでそうそう食べられないんですが、茹でても皮が固くて中身がやわらかくなっている、あの感じが似てるような気がします。
へー、面白い。マロが書いてる通りですね。いろんな野菜を一緒にしたみたい。不味くないです。美味しいんじゃないの?日本で戦時中に受け入れられなかったのは、ジャガイモの代用品だと思うからじゃないですかね。もののない時代に、何かの代わりとして仕方なく食べたら、どんなものだって不味く感じると思います。
キクイモ。わたしはかなり気に入りました。また買おうかな。
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キクイモには澱粉がほとんどなく、イヌリンという分解されずに排出される(といわれている)多糖類が含まれているので、ダイエット食品などに利用されてるみたいです。
念のために『家なき子』の原典にもあたってみる
植物名は誤訳ってこともありうるので、いちおうフランス語の原典もあたってみました。ちなみにわたしはフランス語なんてこれっぽっちもわかりません。
日本語訳が青空文庫に入っているくらいだから、フランスのサイトにフランス語の原典がありそうなものです。原題は "Sans famille" ですから、それで検索したら見つかりました。
http://www.ebooksgratuits.com/html/malot_sans_famille.html
キクイモが出てくるのは、楠山正雄の訳だと「おっかあの家」の章ですから、そこいらへんを探します。あった、ありました。
Dans cette partie de jardin j’avais planté un légume qu’on m’avait donné et qui était presque inconnu dans notre village, – des topinambours. On m’avait dit qu’il produisait des tubercules bien meilleurs que ceux des pommes de terre, car ils avaient le goût de l’artichaut, du navet et plusieurs autres légumes encore.
google翻訳につっこんで、すこし整理して訳すとこんな感じですかね。
わたしは自分に与えられた庭の一部で、わたしたちの村ではまだほとんど知られていない topinambours という植物を植えました。それはジャガイモよりもはるかに優れた作物だと言われています、なぜならそれは、アーティチョーク、カブおよびその他いくつかの野菜の味を持っていたので。
キクイモにあたる単語は topinambours です。検索してみると、まさにキクイモの写真がヒットするし、フランス語のウィキペディアに、1613年にパリに持ち込まれて、植物の分類で有名なリンネって人がブラジル起源だとどーのこーのって書いてあるみたいなので、1878年発表の Sans Famiile に出てきても矛盾はなさそうです。どうやらわたしが食べたものと、レミが栽培してた topinambours は同じもののようです。
さらにしつこく、味を説明している部分を解析してみると、
topinambours キクイモ
ils avaient le goût それらは味を持っていた
de l’artichaut アーティチョークの
du navet カブの du = de le
et および
plusieurs autres légumes その他いくつかの野菜
楠山正雄の訳には出てこない「カブ」が入ってて、別にこれ読んでから「カブに似てる」と書いたわけじゃないので、今ちょっと驚いているところ。
フランス人はどんな食べ方をしているのか
◎Topinambours et coquillettes
http://www.supertoinette.com/recette/678/topinambours_coquillettes_to_de.html
茹でて皮をむいたキクイモを、マカロニやベーコンや、その他の野菜などと一緒に炒め合わせたもの、みたい。
◎Cocotte de Topinambours façon Tajine Marocaine
http://pigut.com/2012/04/13/cocotte-de-topinambours-facon-tajine-marocaine/
これはタジン(モロッコの蒸し焼き用の鍋)で調理したものらしいです。リンク先にレシピもあったけど、輪切りにして蒸し焼きにしてから、水を差してすこし煮た、みたいなこと書いてあって、ほんとにそんな調理法でこうなるかしらってな感じ。
◎ Tajine aux Topinambours (Batata qasbiya)
http://www.vip-blog.com/vip/articles/2978715.html
写真だけですが、やはりタジンで調理したもののようです。これなら確かにタジンで蒸した感じがします。美味しそう。
◎Boudin noir de Mortagne aux topinambours rôtis
http://amafacon.canalblog.com/archives/2011/11/25/22803228.html
「血入りの腸詰め・ベークドキクイモ添え」って感じですかね。肉料理の付け合わせもわるくないですね。ジャガイモだと澱粉が多いので重たいけれど、キクイモなら適度に食べごたえがあるのに軽めでいい感じになりそう。
◎Gratin dauphinois aux pommes de terre et topinambours
http://www.cuisinechoupinette.com/archives/2009/12/05/16044090.html
これはグラタン。ああ、グラタンもいいなあ。この人はジャガイモも入れてるけど、キクイモだけでいいような気がする。炒めたタマネギとベーコンなんかいれてもよさそう。
◎Velouté de topinambours, écume à l’huile de truffe
http://cuisineplurielle.com/archives/2012/02/01/veloute-de-topinambours-ecume-a-lhuile-de-truffe/
これはキクイモをペーストにしてクリーミーなスープにしたものにトリュフをトッピングしたものらしいです。へえ、なるほど。フランス人が考えるとお洒落ー。
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