▲桑を食べているお蚕さんは福顔だと思う
結局、蚕は半分くらいに減ってしまいました。さっき掃除をしたらまた一頭死んでいました。伝染病とは本当に恐ろしいものです。目の前でバタバタ死んで行くのに、発病してしまうとどうしようもありません。
こういう病気が蔓延しないように、昔は普通の人が蚕を飼ってはいけない法律がありました。どういう手続きで許可をもらうのか聞いたことがないので知りませんが、決まった農家でしか蚕を飼えなかったのです。ナイロンが発明されるまで、養蚕は国家をあげた一大産業でした。
化学繊維の登場と、中国などの安い労働力に負けて、日本の養蚕はすっかり衰えてしまったので、数年前に法律が変わり、誰でも蚕を飼えるようになりました。おかげで単なる興味で蚕の種を通販で購入できる便利な世の中になったというわけです。
ところで、うちのお蚕さんたちは、そろそろ「ずー」になります。老熟して繭を作るようになった蚕を養蚕用語で熟蚕(じゅくさん)と言うそうですが、その熟蚕のことを祖母は「ずー」と呼んでました。どんな字をあてるのかも、どういう意味なのかもよくわかりません。
まるまる太ったお蚕さんを見て、こっちはまだだけど、これは既にずーになった、などと言うのですが、子供の頃はまるで見分けがつかず、なぜわかるんだろうと不思議でした。実はそのことが軽くトラウマになっており、自分で飼っているお蚕さんが「ずー」になっているのを見分けられるのかとても心配でした。
知識としてはちゃんとあるのです。まず餌を食べなくなり、体が飴色になり透けてきて、いくらか縮んでくるそうです。しかし、うちのお蚕さんたちは、五齢になったら軽く黄ばみが出て、黄色いのと飴色なのと見分けがつくものなのか疑問でした。
が、そんな心配はまるで無用だったのです。
うわー、本当に透けてるー!!
▲どちらが「ずー」か、わかりますか?
上の写真は、右が「ずー」になった蚕で、左がまだ葉を食べてる蚕です。右のほうが全体に黄色いのはすぐわかると思うんですが、体の節を注目してみると、左は青いけど、右は黄色く透けてます。
実は動きも違うんです。「ずー」になった蚕は首を8の字に動かして、地面に糸をはきつけながら歩きます。
わたしゃ何をうろたえているんでしょうね。普段から蛾や蝶の幼虫を飼ってる時は、蛹になる前触れをわりと正確に見分けているんだから、お蚕さんで出来ないわけないんです。あははは。
▲これは奥が「ずー」です。
▲蔟(まぶし)に上げてみました。あまりアングルがよくないのですが、体が透けてる感じが伝わるでしょうか。
▲蔟につかまらせてやると、勝手に歩き回って適当な場所で繭を作ります。
農家で何万匹も大量に飼う時は、一頭一頭を見分けて上蔟させるわけにはいかないので、全体の様子で頃合いを見計らって一気に蔟に入れてやります。五齢になってからの午前中の気温の通算が摂氏百九十度を越えたら、なんて目安があるらしいのですが、祖母がそんな計算をしてたかどうかはちょっとわかりません。
祖母の家で使っていた蔟は、回転蔟というもので、その構造がまた面白くて大好きでした。それについては次に書きたいと思います。模型を作るのは大変なので、今度こそイラストがいるかな。