ローマの博物学者である大プリニウスは、カイコについて以下のように書いている。
- カイコとよばれるもののひとつはアッシリアに産する。
- アッシリアのカイコは塩のような泥で巣を作る。石に付着して非常に固く、投げやりでも貫けない。
- アッシリアのカイコは、固い巣の中にミツバチよりも大きな蜂房を作り、大きな幼虫を産む。
- 幼虫は蛆であり、成長すると二本の突出した角を持つ毛虫になる。
- 幼虫は繭を作り、蛹になる。
- 蛹は六ヶ月のちに「カイコ」になる。
- カイコが蜘蛛と同じように巣を張り、絹の材料になる。
- カイコの巣を糸にして織る方法を考えたのは、コス島に住むプラテアスの娘パンピレである。
- コス島のカイコは、雨で落ちたテレピン樹、サイプレス、トネリコ、カシワの葉に、地面から立ち上る蒸発気があたることで生まれる。
- 最初に小さな蝶が生まれる。これには綿毛がない。
- この蝶が冬の寒さに耐えられなくなると、木の葉の綿毛をかきあつめて足で圧縮し、羊毛状のものを作って体にまとう。綿毛は爪などで梳かれて補修されるうちに螺旋状の巣になるという。
- その虫は人によって飼われる。焼き物の容器に入れられ、温味と糖の餌で飼育されると特殊な綿毛を生じる。この綿毛を剥きとって蒸気を加えてやわらかくし、灯心草の錘(つむ)で細い糸にされる。
雄山閣『プリニウスの博物誌』より要約・引用
上記は複数の虫について書いたものかもしれない。また、日本で主に育てられている家蚕ではなく、野蚕の何かであろうと考えられる。
野蚕は、日本や中国ではヤママユガ科の昆虫をさすが、アフリカやヨーロッパでは、カレハガ科やギョウレツケムシ科の昆虫も利用されるという。参考>有限会社きぬさや(絹製品の開発、製造、販売)
地面から蝶が生まれることから、その虫が土中または落ち葉と土の間などで蛹化することが想像できる。また蜂のように房を作るとあるので幼虫が集団で糸を吐き、巣を作ることが想像できる。蝶が冬の寒さにたえきれずに綿毛を作るのは、卵胞に卵を産む様子かもしれない。
ウガンダにアナフェサンというギョウレツケムシ科の蛾がいるそうだ。幼虫は子供の頭ほどもある大きな巣を作る。詳しい生態がわからないので判断しかねるが、プリニウスの記録と何か関係があるだろうか。