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『核と女を愛した将軍様』

核と女を愛した将軍様
2006年初版

 本は新しいけれど、金正日の料理人をしていた藤本健二の手記なので内容は1982〜2001年頃のもの。食べ物の話が多く、高英姫夫人や、夫人との間の三人の子供達など、ロイヤルファミリーの話が多い。一時期、日本のニュースでも有名になった金玉(キムオク)という女性秘書の話も出てくる。

 料理人の立場で見たものを書いているだけなので、政治的な話はあまりパッとしない。タイトルは「核と女」なのに、核兵器については「持たないと他国に襲われる」という金正日の言葉と、途中にシャッターがあって進めない秘密のトンネルをみつけたという話だけで、大したことは書かれていない。




 藤本氏は、北でも、日本に一時帰国していても、自分は監視されていて、本格的に北を離れた今ですら、いつどこから狙われるかわからない、と話しているわりに、金正日の家族と過ごした時のことを、とても懐かしそうに書いている。

 藤本氏が描く金正日は家庭的で人のいい金持ちのオッサンだ。もしかすると言葉の壁というフィルターを通すからそう見えるのかもしれないが、なんにせよかなり好意的に書いており、一時期は金正日を本気で尊敬していたとすら言っている。

 それでも逃げ帰って来たのは、些細なことで粛正されるかもしれないという恐怖からなんだろうか。拉致被害者でないこともあってか脱出はアッサリしたもので、買い付けに出かける飛行機の中で、キャビンアテンダントに手紙をわたし、機長を通じて日本の警察に連絡をとったとある。

 申相玉と崔銀姫の手記に、1983年に安山閣で日本人の料理人を見たという話がある。藤本氏の他に、日本料理の板前がいたそうなので(これが誰かは明らかにされていない)、申相玉が見たというのはその人である可能性もある。

 藤本氏は安山閣で崔銀姫を見たと書いている。1992年に、安山閣ではなく秘書棟の八階とあるから党施設だろうと思うんだけれど、そこで金正日のために寿司を握っていると、その席に拉致された女優の崔銀姫がいて、金正日にチョコレートを食べさせてあげていた、と。

 藤本氏の本は図書館にもう一冊あるので予約中。北朝鮮本はけっこう人気があって貸し出し中が多い。北での実体験を綴ったものを読みたいので、次は忘れなかったら『私は金正日の「踊り子」だった』あたりを借りてこようと思う。

タグ:北朝鮮

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