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吉見百穴を知っていますか?

 先日、埼玉方面をともだちの車で移動中に「吉見百穴」という看板を見ました。

 百穴というからには穴が百個あるんだと思います。そうは思うのですが、頭に絵が浮かんできません。

 井戸のような深い縦穴が百個……いや、それはない。そんな穴ならとっくの大昔に埋められてそう。じゃあ横穴? 浅いのか、深いのか、小さいのか、大きいのか……

 さっぱりわからないので見に行きました。

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 じゃーん、これが吉見百穴です。うわ、ほんとに穴だらけ。岩じゃなくて粘土質の山で、そこに小さくて四角い穴が無数にあいてます。

 これ、なんだと思います?

 じらしても仕方がないので書きますが、この穴はお墓なんだそうです。以前は土蜘蛛人(コロボックル人)という先住民の住居と言われてたそうですが、今は古代人の墓だというのが定説になっています。

 今でも数十の穴がありますが、昔はもっと沢山あったそうです。第二次世界大戦中に、軍事工場を作るために、ずいぶん壊されてしまったということです。

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 穴を拡大するとこんなですね。一段浅く掘られた部分は蓋受けです。ここに人が葬られた当時は、岩か粘土板か、そういうものをここにはめて蓋をしてたそうです。

 江戸時代には、穴だらけの不思議な風景として知られていたそうですから、蓋が無くなったのは、何百年も前のことでしょう。

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 穴の大きさはこんな感じです。この穴に網がかかっているのは、中にヒカリゴケが自生しているからです(ヒカリゴケについては後述)。たいていの穴はむき出しになっているし、いくつかの穴には入ってみることもできます。

 ある穴に入ってみました。入り口が小さいといっても、ちょっとかがんだら普通に通り抜けられるサイズです。中に入ると……おおっ、中は意外と大きいです。

 わたし(身長 158cmくらい)がまっすぐ立っても天上にまだ十分な余裕があるくらい。広さも畳二畳分以上あるんじゃないでしょうか。

 そこに一段高い部分が二カ所あります。高いといっても地面から10cm程度の高さで、両壁に沿って作られています。どうやらここに埋葬者を安置したようです。ホテルのツインルームみたい。
 
 ふと、イザナギ・イザナミの神話を思い出しました。火の神を産んだ時のやけどがもとで死んでしまったイザナミを、夫のイザナギが黄泉の国(使者の国)まで迎えに行きました。ところが妻の体はすでに腐っていて、イザナギは驚いて逃げ帰り、黄泉への入り口に大きな岩を立ててふさいでしまいます。

 イザナミの墓も、こんな山肌に掘られた穴だったのかなと思います。夫がたてた大きな岩は、墓をふさぐための石版だったんだろうなと。

 岩戸の向こうからイザナミが叫びます。
「よくもわたしの醜い姿を見ましたね。この代償として、これからは一日に千人ずつ黄泉の国に呼ぶことにしますよ」

 岩戸のこちら側でイザナギが言い返します。
「そうか。それならわたしは一日に二千人分の産屋をたてる」

 穴は死者の国と、生者の国をつなぐ通路です。両者をきっぱりとへだてているのが岩戸というわけです(岩戸の向こうから帰ってきたのは、日本神話では天照大神だけです)。

 ところが吉見百穴ときたら、生と死をへだてる岩戸がなくなって、死者の国への入り口がぱっくりあいてしまってる。それが何十も。なんという不思議な空間!

 いや、死者の国の入り口といっても、不気味な点はほとんどないんです。どちらかというと明るい力を感じる場所です。

 不思議なことですが、なぜか大勢が吉見百穴を見に来ます。おみやげ屋さんと、小さな歴史資料館があるだけなのに、寂れた感じがなく、いつ行っても賑わっています(あんまり面白くて二度見に行きました)。

 やはりここは、パワースポットというか、ある種の聖地なんだと思います。墓穴の口があいているのだって、中の人たちに墓が必要なくなったからかもしれませんしね。

 死者の国への入り口というより、来世への「産道」だと考えたら、なにか明るい未来が見えてくる、かも?

 吉見百穴、たぶんきっと、何かがあります。

ヒカリゴケ

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 先に書いた通り、穴の一部にヒカリゴケが自生しており、天然記念物に指定されています。コケを保護するために穴の入り口が金網でふさがれていますが、網の隙間から誰でも見学できます。

軍事工場の跡

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 墓穴のある山肌をくりぬいて作った洞窟で、この中に飛行機の部品を作る工場があったそうです。もっとそれっぽい写真をとりたかったのですが、中は薄暗くて(照明はあるんですが)写りそうもありませんでした。

 中は車が一台出入りできそうな通路になってて、そこからさらに枝分かれした通路が奥に続いているような感じ。奥へ向かう通路は閉鎖されてました。

 壁の一部にくぼみが作られていて、そこに何かの機械を設置してたかもしれませんが、今はすっかり撤去されていて、当時どうなってたかは見ただけではわかりません。

 わるものの秘密基地みたいだなと思ったら、特撮ドラマのロケ地になったことが何度かあるそうです。


 百穴に近づくには、いちおう入場料を取られるのですが、中に入っちゃったらわりと自由に見学できてしまいます。みなさん、くれぐれもいたずらなどしないようにお願いします。


◎吉見百穴(吉見町役場のサイト)
http://www.town.yoshimi.saitama.jp/guide_hyakuana.html

入園料 中学生以上300円(子供200円)
定休日 年中無休
東松山駅から1時間に2~3本バスが出ています。


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