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蟹退治>今度は尻からですかっ

*大腸内視鏡検査の朝
 はいはい。お楽しみの大腸内視鏡検査の日がやってきました。前日からのわびしい検査食に加え、ラキソベロン一気飲みをしたおかげで朝の便はほとんど水。水に溶けた便が多少入っている程度。そのような便が起床後一時間くらいの間に二度ほど出ましたが、それでおさまりました。朝出かける段階で、腸の中はほとんど空じゃんじゃないかと思います。

 先日、腹水を抜いた時に針を刺したあたりがかゆくなっていました。なんだろうってがんばって見ようとしましたが腹が巨大になっていて自分の下脇腹が自分の視界にはどーやっても入りませんっ。仕方ないので手鏡などを使い苦労して見たところ、傷はきれいにふさがっているのに、絆創膏を貼ったところが見事にかぶれてました。あちゃー、言われた通りにすぐはがしたつもりだったけど、体調が悪いせいか皮膚が負けたか。ちなみに、かぶれの痕はその後数日ずっとかゆかったです。採血や注射のあとに貼る絆創膏でもかぶれますから、何時間も放置せずにすぐはがした方がいいです。

*そして今度はニフレック地獄

 検査の前は食事もとれないので、特に準備することもなく病院へ。すでに腸の中はからっぽなのに、それでも飲まなきゃならないニフレック。液体の下剤で「ポカリスエットに似た香りがしてまずい」と受付のお姉さんから説明されています。

 今日検査することになっている人たち七、八人がテレビとトイレのある部屋に集められ、ひとりひとりに二リットルずつのニフレックが配られました。麦茶でも作るようなボトルに入れられていて冷たく冷やしてあります。無色透明でパッと見は水にしか見えません。

 これを紙コップに注いで、最初の二杯までは十五分(計三十分)かけて飲み、次からは一杯十分のペースで飲むとだいたい二時間でのみきる計算になるそうです。ボトルの半分のところに赤いテープが張ってあって、そこまで飲むと一リットル。一リットル飲んでも便が出ない場合は申し出てくださいということでした。

 検査についての説明を軽く聞いて、飲み始めたのは午前十時。匂いをかいでみたら本当にポカリスエットみたいな良い匂いです。これなら大した苦痛はないのではと、油断してグイッとやったら……

 具謬ぎゅヴぇぐべぇがひゅうぅぅぅぅぅ

 な、なんじゃこの味は!!!

 しょっぱい、ような気がするけど完全な塩気を感じる直前で寸止めされたような味で神経を思い切り逆なでする不快感。苦い、ような気がするけど苦味をはっきり感じる直前でじらされているような苛立たしさ。そんなものがどことなく甘いような甘くないようなアイソトニック飲料っぽい顔をして「さあ飲め、死ぬまで飲め」と襲ってくる恐怖感。

 はっきり言ってこの世のものとは思えない不味さ。いまだかつてこんなに不味いものを飲んだことがあるだろうか。これなら苦丁茶かせんぶり茶の一気飲みを強要されたほうが何十倍もましだと思う。

 思わず咳き込んでしばらく止まりませんでした。これはキツイ。トラウマになる。色も映像もない不快感だけの悪夢を見そう。これを二リットルなんて絶対にいやだー!!!

 部屋にあるテレビはNHK総合なんて辛気臭いもの流しっぱなし。最初は高校野球で途中から長崎原爆忌の式典の中継でした。小泉純一郎の平和への決意なんか聞きながらじゃ不味いものが余計にまずくなる。一口のむごとに頭をかかえ、二口目には眉間やらこめかみやらを押さえて苦痛に耐える感じ。そのうち思考もおかしくなってきて、原爆で死んだ人たちは、「水、水」と言いながら亡くなったのだから、不味くてもニフレックを飲んでいる自分はひょっとしたら幸せなのか、いや、そうではない、やけどを負って瀕死の状態であっても、こんなもの飲まされたら末代まで祟ってやるという気持ちになるはずだ、などという不謹慎な想像までするようになってきました。

 しかもこれって、いわゆる下剤っていうのとイメージが違う感じ。ラキソベロンなんかは飲んでから一時間もするとお腹がゴロゴロいいはじめて「そろそろ下ってくるかな」って思うんだけれど、ニフレックは腹にたまっていくばかりで下る様子なし。飲み始めて一時間以上たってからやっと出るようになってきたけど、爽快に出るというより上からたまってきたから押し出されてきましたみたいな出方で不愉快きわまりなし。そのうち、胃にたまってる分がゲップをするたびに逆流しそうになってきました。

 先日の胃カメラで、胃には異常がないことはわかったので、たぶん腹圧のせいで胃腸の動きが鈍ってるんだと思うんです。便意もないのにトイレに行ってみたり、そこらを歩き回ってみたりいろいろするんだけれど、飲んだ分がうまく出てこなくて腹はへこまない。とてもこれ以上は飲めない、無理って感じになってしまいました。

 不味いので飴玉をなめて味を変えるといいですよと言われていたから、シークワーサー味のキャンディーなどを持参したのですが、そんなものなんの気休めにもなりません。もうだめ、無理、不可能。仮にあと一杯飲んだとして、そのあたりで物理的に腹に入らなくなると思う。

 まわりを見回すと、みんな黙々と飲んでます。おじいちゃんもいる。おばあちゃんもいる。そりゃ、他の人たちは腹水たまってたりしないと思うけれど、それ以前にこの不味いものをよくぞ……みんな偉い。全員に拍手をおくりたい。あなたたちは勇者だ。英雄だ!!

 でもね、誰も他人と口きいてないの。同じ部屋に七人とかいるのに、隣の人としゃべってる人とかひとりもいないのよ。たぶん口きいちゃったら「不味いですね」って話になるので何もいえないんだと思う。言葉にしたらもう終わり。自分をごまかして口に運んでいるから飲めるんだと思う。となりに座ってた女の人なんか、最初は女性週刊誌を見てたんだけど、もう読んでいるというよりイライラとめくっているだけで、その不快感が頂点に達していることが手に取るようにわかってしまう。

 わたしはというと、幸いその頃には便に固形物が混じらなくなり、黄色い透明な水しか出なくなっていたのですが、下剤はまだノルマの半分しか飲めていません。看護婦さんにもう無理だと伝えましたが「ゆっくりでいいですからもうちょっと頑張ってください」なんて非道いことをおっしゃる。ありえません。殺す気でしょうか。

 しかし、便は透明になっていますし、看護婦さんに確認してもらったところ、医者に話を通してくれたようです。もういいので午前中に検査してしまいましょうということになりました。消化器内科からまわっているカルテに腹水がたまっていると書いてあるので、検査の医師もそのへんを加味して手加減してくれたのだと思います。やったラッキー。みんなごめん、わたしはズルして先にすすませてもらうよ(T-T)/

 大腸内視鏡なんて初めてなので、検査そのものも不安だらけだったのですが、ここまで来るとニフレックの不快感から逃れられるというだけでもうどうなってもいいという気分になってきます。術衣に着替えてこっちへ来てくださいといわれた時は心の中で小躍りです。

 術衣はじんべえの上だけみたいなのを丈を長くしたもので、下は後ろに穴のあいた不織布のキュロットみたいなものをはくように指示されました。なるほど、これなら医者に見られるのはほとんど肛門だけですな。よく出来てる。

 検査の前に点滴針を刺されました。今回は会計にまわす明細書をメモってきたので何を使ったのかわかります。点滴されたのはソリタT3号という電解質の入った液体のようです。例によって針を刺すときにひと悶着ありました。右手出してというから素直に出したら、「刺さったけど液漏れしたから」とかいって「左にする」だって。

「左でいいなら最初から言ってよー。左のほうが刺しやすいんですよ」

と抗議したら医者が「ごめん」とかいって、他の医者にバトンタッチして逃げやがりました。これが内科や外科の外来やってる看護婦さんなら、見るだけでこの腕は刺しにくいって分かってくれるのに、検査系の医者ってほんっとダメ。MRIの造影剤を入れるときも、右腕に無頓着に針刺して漏れたっつって抜くし。おまいら何人に針さしたら刺しやすい腕とそうでないのを見分けられるようになるわけ? わたくし、献血マニアだったので針の刺し方には少々うるさいのよ。

 バトンタッチされたお医者さんは、どうも一昨日の胃カメラの人のようでした。今日も同じような鎮静剤をうちますからねーと点滴チューブの途中に注射器さして何か打ってた。メモによると、ロヒプノールという睡眠薬と、オピスタンという麻酔薬のようです。胃カメラの時の薬もほぼこんな感じでしょうね。明細にはアネキセートというロヒプノール(ベンゾジアゼピン系)の薬の効き目を解除する薬も書いてあったので、どっかのタイミングでそれも打たれたかも。

 ロヒプノールは前に錠剤で飲んだときは大した効き目を感じなかったけれど、さすがに静脈注射されると速攻ききます。「ああモウロウとしてきたわー」と思ったあとの記憶はほとんどないです。気づいたらしりからカメラが入った状態です。明細に「キシロカインゼリー」ってのがあるので、おそらく肛門にぬりたくって潤滑剤にしたもよう(検索するとSM用品として売られてたりして爆笑です)。

 内視鏡検査というのは、技師の腕次第で痛みがほとんどないそうですが、確かにぜんぜん痛みはなかったです。一度だけ急にお腹が張ったような痛みがあったので「いててて」と言ったら、検査するのに空気を送り込みながらやってるせいだということでした。

 そんなこんなで検査は滞りなく終わり、その場で「何か変なものは写ってましたか」と聞いたら「いや、大腸は大丈夫ですよ」との返事。大腸は大丈夫だけど直腸は……とかだったらイヤだけど、病変を削り取るような作業はしなかったみたいだから、本当に異常はなかったんだと思います。

 検査の後もしばらくベッドの上でうごけませんでした。ソリタT3号の点滴がまだ終わらないからです。途中で胃カメラの時の休憩所にストレッチャーごと移動されて、点滴が終わるまで居眠り。検査の時に空気を入れてるのでオナラが出そうなんだけど、出すと実も一緒に出てしまいそうだと看護婦さんに言ったら、中身は検査のときに吸い取っちゃったから何も残ってないと思いますよーといわれて安心してブリブリ。大きなオナラを遠慮なくするのって気持ちがいいわ。カーテンの向こうにこれから検査する男の人とかいるみたいだけど知ったこっちゃありません。

 そんなこんなで一時間くらい休んで帰っていいよって許可が出ました。起きたら突然便意がおそってきてトイレに行ったら黄色い液体がジャーでした。今頃かよ。一リットルは飲んでるはずだから、全部出るまでこの調子でトイレとおともだち状態だと思います。

 幸か不幸か紙おむつは必要なさそうです。でも、かるく肛門が痛いんです。アナルプレイをした後ってこんな感じになるんでしょうか。思わぬところで疑似体験をしたような気分。

教訓
 大腸内視鏡検査は恐くない
 でもニフレックは死ぬほどこわい

*大腸内視鏡検査のまとめ

 病院によって(あるいは検査開始の時刻によって)やりかたは少し違うかもしれないけれど、わたしが受けた検査(お昼過ぎに開始予定)はこんな流れでした。

1. 検査前日は腸の中を空にするために、低残渣食という食事をする。お粥やお豆腐の味噌汁など、腸にたまりにくい食事で、自分でも作れるけど、面倒くさい人はグリコのエニマクリンという検査食を買って食べる。三食+おやつが入って1480円。

2. 検査前日は、夜七時までに夕食を済ませ、九時にラキソベロンなどの下剤を飲む。夜の間は水分はとってもよいが、牛乳・アルコール・乳製品飲料は不可。あと、野菜ジュースのようなものもやめたほうがよさげ(繊維が入ってるから)。

3. 検査当日は何も食べない。水は可。普段飲んでる薬がある人は朝七時くらいまでに飲んでおく。ちなみに、検査前に飲んではいけない薬もあるので必ず事前に聞いておくこと。

4. 病院へ行き(自宅でやる場合もあるらしい)、ニフレックなどの液状の下剤を二時間かけて二リットル飲む。その間、下剤の味をごまかすためにあめ玉をなめてもいい。色のついていないものを用意してくださいと注意されたけれど、赤や青のどぎついものでなければ大丈夫らしい。わたしは黄色いシークワーサーキャンディーと、UHAUHA味覚糖の純露を用意して受付で聞いたところ、どちらもOKだった。

5. 下剤は腸をからにするために飲むので、全部飲むまえに空になってしまったら、もう大丈夫かどうか看護婦さんに確認してもらい、医者にOKをとってもらうと早めに解放されることがある。必ず「お医者さんに聞いてください」と頼むこと。看護婦さんレベルでは決断できないから。便が透明な水(黄色くてOK)で固形物が混ざっていなければ大丈夫、らしい。

6. 尻のあいた検査着に着替えて、点滴などうたれながらアナルプレイ。睡眠薬を使う病院なら、ほとんど苦痛はなく気づいた時にはもう終わってる。

*お会計
基本診療料 210円
検査料 6840円
合計 7050円也

 内視鏡検査は尻からでも口からでも金額は変わらないらしい。

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