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和名 ダイズ(大豆)
別名 枝豆(大豆の若いもののこと) 
黒大豆、黒豆、烏豆(外皮の黒い品種)
学名 Glycine max(甘いもの の意)
科名 マメ科
沖縄口 ウフチザー
トーフマーミ(豆腐にする豆 の意)
アイヌ語 マメ(日本語から) 
中国名 大豆
英名 soybean(醤油にする豆 の意)
エスペラント sojo または sojfabo(醤油にする豆 の意)
その他 graine de soja(仏)
Sojabohne(独)
soia(伊)
soja(西)
原産地 アジアであることは確かだがはっきりしない
中国北部、インド・南西アジア、東南アジア、日本説など
 
 
生ダイズには毒がある?
 ダイズを豆として食べるのは日本をはじめとするアジア諸国だけである。それ以外の国では植物油の原料として知られている。

 そもそも、完全に熟して固くなったダイズは消化が悪く、食べにくい。また、あまり知られていないことだが熟したダイズには毒がある。赤血球凝集素といって、血を凝固させる物質である。ダイズを生で食べつづけると体に悪い。

 通常の植物は、甘い実をつけ鳥や獣に食べてもらうことで種が運ばれる。しかし、ダイズには果肉がなく、種そのものをかみ砕かれてしまうと増えることができない。そこで毒をもつことで身を守っているというわけだ(これはダイズに限ったことではなく、多くの豆類の共通したことである)。

 勘のいい人ならば、このあたりで疑問を持つだろう。
「納豆を食べると血がサラサラになると言うけど、あれはウソなの?」
 最近になって、テレビでうるさいくらいに納豆の効果を強調しはじめた。さまざまな良い面があるが、特に言われているのは血液をサラサラにして血栓を予防する効果である。ダイズの毒性と矛盾するのではないか?

 ここが大事な点なのだが、ダイズに毒があるのはあくまで生のときの話で、処理をすれば安全な食べ物になる。アジアには、ダイズの加工品が数多く存在するが、どれもこれも、固いダイズをやわらかく、また無害なものにしようとした工夫の結果なのだ。

 ダイズの有効成分としてレシチンが知られている。レシチンは乳化作用によって脂肪を溶かし、脂肪が体内に定着するのを防ぐため、動脈硬化の防止に役立つと言われている。レシチンは卵黄にも含まれるが、ダイズでとるのが効果的だと言われている。

 また、ダイズにふくまれるイソフラボンは女性ホルモンと同じ働きをするといわれており、更年期障害の解消や、骨粗しょう症の防止などに役立つといわれている。ただし過剰摂取を危険視する意見もある。

 ダイズの品種のうち外皮の黒いのをクロダイズ、クロマメ、カラスマメなどという。おせち料理に入っている黒い豆はこれである。アントシアニンが豊富で高酸化作用があると言われている。

ダイズの利用法
 固いダイズをやわらかく、かつ無害なものにするために、アジアではさまざまな工夫をしてきた。

枝豆(えだまめ)
 これは加工とは違うが、まだ青い未熟なものを食用にすれば、消化もよく、毒性も低い。しかし、この場合でも生で食べることはなく、たいていは加熱処理をする。熟したダイズにくらべれば短時間の加熱で食べられるようになる。
 茹でてそのまま酒のつまみに、茹でてつぶしたものに砂糖をくわえ、ずんだ、または、じんだと呼ばれるあんこにする。

豆乳(とうにゅう)
 水に長時間ひたしてふやかしたダイズを水とともに挽きつぶして絞ると牛乳に似た白い液体がとれる。これを豆乳といって、そのまま飲むほか豆腐の原料になる。

 生のダイズに毒性があるなら豆乳にも、と思うのだが、その件についてはっきりのべている資料がみつからない。むしろ牛乳よりコレステロールが低くて健康によいと書いてあるばかり。もっとも、程度の問題というのもあるので、生ダイズばかり毎日大量に食べ続けなければ問題のない程度の毒なのかもしれない。

雪花菜(おから)
 豆乳をつくるときに出る絞りかす。これも捨てずに食用にする。また、家畜の餌にもする。

豆腐(とうふ)
 豆乳を加熱して、苦汁(にがり)と呼ばれる凝固剤を加えると固まってくる。これを型に流して冷ましたのが絹ごし豆腐で、重しをして水を抜いたのが木綿豆腐である。
 豆腐は豆を腐らせると書くが、豆腐自体は発酵食品ではない。中国北方系の遊牧民族がチーズなどの乳製品を「腐」と呼んでおり、豆から作った腐に似たものだから豆腐と呼ぶようになったらしい(参考[広告]>『アジア菜食紀行icon』)。

納豆(なっとう)
 茹でたダイズを納豆菌または枯草菌で発酵させたもの。日本、韓国のほか、中国南部、ラオス、タイなどの東南アジア、さらにはネパールでも食べられている。それぞれの国や地方で作り方が違い、発酵させてから潰して味をつけたものや乾燥させたものなど変化に富む。どこかで発生したものが伝播したのではなく、各地で個別に発生したと考えられる。

 西アフリカではイナゴマメなどの野生の豆を煮て枯草菌で発酵させたものを食用にしていたが、最近では畑で作ったダイズで同じものを作って食べているという。

 また、インドネシアにはテンペといって、大豆をクモノスカビで発酵させて柔らかくし、レンガのように固めたものもある。オチョム、ダケなどともいう(参考[広告]>『マメな豆の話icon』)。

味噌(みそ)
 調味料。水でふやかしたダイズを長時間茹で、やわらかくなったら潰して人肌に冷ます。冷ましたところへ塩と麹を加えてまぜ、重しをして数ヶ月発酵させて作る。発酵食品であることは納豆と同じであるし、中には味噌と見分けのつかないような納豆もあるが、使われている微生物が違っている。納豆菌で発酵させた納豆はナットウキナーゼというものの働きで血栓ができるのを防ぎ、体によいとされている。

醤油(しょうゆ)
 茹でたダイズに炒った麦を加え、塩と麹、水を加えて発酵させたもの。調味料として使う。おそらくは味噌を作るときに出る水気に旨味があることから、調味料として使われたのが最初ではないかと思われる。

黄粉(きなこ)
 炒ったダイズを挽いて粉にした物。餅や団子にまぶすなどして使う。ココアの代わりに牛乳に混ぜて飲んでも美味しい。

大豆モヤシ
 豆モヤシともいう。ダイズを発芽させたもの。

大豆油(だいずあぶら)
 ダイズからしぼりとった油。食用にされるほか、インクの材料などにもされる。

油粕(あぶらかす)
 油をとったあとにのこるしぼりかす。飼料や肥料にする。豆粕(まめかす)とも。
 

 また、イネなどを作ったあとの農地にマメ科の植物を作ることを緑肥という。植物は成長するのに土中の窒素を使ってしまうが、マメ科の植物の根には空気中の窒素をとりこ細菌がつくため、疲れた農地が回復するのだという。

ダイズにまつわる言葉
Glycine max
 ダイズの学名。Glycine 属(ダイズ属)の中で大きなもの、というような意味で、Glycine には甘いという意味がある。ダイズに甘みがあることからつけられたらしい。

soybean
 ダイズの英名。bean はインゲンやソラマメを意味する単語。
 醤油のことをソイソースというが、ダイズはその原料であるためソイビーンという。ダイズはアメリカでもロシアでも大規模に栽培されているが、外国ではダイズという豆そのものを食べることは少なく、主に植物油の原料として消費する。そのため、ダイズそのものを意味する一般的な言葉がなかったのかもしれない。

 そこで気になるのは、栽培が始まった当初から「醤油豆」と呼ばれていたのかどうか、ということだ。もし、最初から醤油用の豆だったとすれば、日本や中国へ輸出するために栽培が始められたということ。そうでなく、別の使い道が最初からあったとすれば、別の呼び名がありそうなものである。

 なお、醤油を作る豆という呼び方はヨーロッパ各国で共通している。

豆を植えて稗(ひえ)をえる
 期待したほどの結果をえられないこと。期待はずれ。

豆を煮るのに豆がらを炊く
 豆がら(豆のサヤなど)を燃料にして豆を煮ることから、兄弟同士で争うこと。

豆腐に鎹(とうふにかすがい)
 豆腐のようにやわらかいものに鎹(かすがい)をかけても意味がないことから効果のないことのたとえ。糠に釘、のれんに腕押し。

豆腐の角に頭をぶつけて死んじまえ
 バカ息子を叱るときや、マヌケな失敗をしたときなどによく言う。豆腐のようなやわらかいものの角に頭をぶつけて死ぬなんて通常はありえないし、そんなことで死んでも笑い話になるだけだ。つまり、お前みたいな馬鹿なやつはみんなに笑われてしまえばいい、とでもいう意味なのだろうか。自分の失敗に対して「豆腐の角に頭をぶつけて死んでしまいたい」などと使うこともある。
 もっとも、昔の豆腐は今よりずっと固いものだったし、凍み豆腐などはカチンカチンに乾燥しているから、思い切りぶつければ豆腐だって凶器になるかもしれないが。

手前味噌(てまえみそ)
 自分で作った味噌を自分でほめること。自画自賛。 

小野川の豆モヤシ煮て食ってうまかった
 意味は読んでそのままだが、ちょうど 20 音節あるのでこのフレーズをとなえると 20 数を数えたことになる。「ダルマさんが転んだ」の 2 倍。

五穀(ごこく)
 代表的な五つの穀類。時代や地方によって違うものがあげられるようだが、一般的には「米・麦・粟(アワ)・黍(キビ)・」ということになっている。黍の代わりに稗(ヒエ)が加わる場合もある。
 この場合の豆が、なんという種類の豆を意味するかは難しい問題である。一種類を意味するのではなく、豆全般を言っているのかもしれない。

  
 
珍獣様が食したダイズ