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和名 ニレチュウレンジ
別名  
中国名  
科名 ミフシハバチ科
学名 Arge captiva
出現期 初夏と秋(年二回) 
食草 幼虫はニレ科樹木の葉を食べる
採集地 東京都江戸川区


 
 都会には緑がないというのは大ウソで、ちょっとしたスペースに必ず木や草が生えてるものなのです。住宅地ならたいていのおうちで庭木を育ててますし、マンションやアパートだって入り口にも小さな花壇くらいあるでしょう。実は、そういうところが虫の宝庫だったりします。今回ご紹介するのも、あるマンションの入り口に植えられている木と深い関係があります。

 その木はニレ科の何かなのですが、正確な名前はわかりません。たぶん庭木にするニレケヤキというやつではないかと思います。「何か」では話がややこしくなるので、ここではニレケヤキってことにしておきます。下の写真はニレケヤキの正常な葉。かわいい鋸歯(ぎざぎざ)があって、きれいな葉でしょう?

これが正常なニレケヤキの葉
2003年10月15日撮影
 
 ある日、その木の前を通ると、葉がなんだか変なのです。下の写真を見てください。葉のふちがボコボコしてます。ふちだけ白く枯れてる葉もあります。
この葉っぱ、なんか変
2003年10月15日撮影
 
 近づいてみました。
 うわ、何これ。葉っぱに何か挟まってる!
この葉っぱ、なんか変
2003年10月15日撮影

 黒い小さなものが、葉の表と裏の組織のあいだに、きれいに挟み込まれていました。よく見ると、ちょうど葉脈の先に黒いものが一個ずつ挟まってるんです。
 黒いものはそれほど固くなくて、爪で押すとプチンとつぶれます。
 種(たね)でしょうか?
 いえいえ、そんなはずはありません。
 種というのは花が咲いたあとにできるものです。ニレケヤキの花は葉のふちになんか咲きません。

 ひょっとしたらムカゴではないかとも考えました。ムカゴというのは植物が養分をためておく部分です。
 でも、ムカゴはたいていの場合、腋芽(わきめ・えきが)に養分がたまって出来るものなんです。「芽」ですから茎から生えてくるのが普通です。葉の縁から芽を出す植物は(ないこともないですが)珍しいです。

 種でもムカゴでもないとしたら…もしかして虫の卵??
 でもでも、こんな薄い葉の、しかも葉脈のあるところを丁寧に選んで卵を産み付けるなんてあり得るのでしょうか??

 とにかく、虫の卵だとしたら中から虫が出てくるはずです。そう思って、10 日後にもう一度おなじ木を見に行ってみました。

 
あっ、芋虫だ!
2003年10月24日撮影
クリックで引いた写真

 頭が黒く、体が緑色で半透明の小さな小さな芋虫が、集団でらわららと葉のふちをかじっていました。

 葉のふちにはさまっていた黒い粒は、10 日前にはパツンパツンにふくれていたのに、今はぺしょっとしています。葉を食べている芋虫が黒い粒の中から出てきたのだとすればつじつまがあいます。きちんと孵化を確認したわけではありませんが、やはり虫の卵だったようです。

 では、この緑色の芋虫、何者なんでしょう?
 芋虫といっても蝶や蛾になるとはかぎりません。コガネムシなどの甲虫類や、ハバチ(葉蜂)という蜂の幼虫も芋虫です。腹脚(おなかの吸盤状の足)の数をかぞえると見分けられるそうですが、こんなに小さいと足の数まで数えられませんよね。

 でも、経験からいって、こいつは蝶や蛾ではなくハバチの仲間なんです。バラにつくチュウレンジバチの幼虫にそっくり。チュウレンジバチはバラの葉しか食べませんからよく似た別の虫でしょう。

 ニレ科の葉につくハバチには、その名もニレチュウレンジというのがいます(わかりやすいけど芸のない名前)。たぶん、そいつの幼虫じゃないでしょうか。
 ただ、図鑑に載っている老熟した幼虫の写真を見ると、どれも体の色が緑ではなく黄色っぽくて、無数の黒い点があるのです。脱皮を繰り返して大きくなると色が変わるのかもしれません。もう少し様子を見てみましょう。

 

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