羽衣を隠して天女を嫁にしようなんて昔の話だよ。今どきの天女たちは羽衣を置き忘れることはないさ。彼女らの母親は、羽衣をとられて帰れなくなった女ともだちのことを、娘らに何度も話して聞かせているからね。
それでも天女と仲良くなりたいなら、夏の朝早く、森や林を歩いてみるといいだろう。これはあまり知られていない話だが、天女たちは朝おきて化粧をするとき、うっかり付け爪を落とすことがあるんだよ。
薄くそいだ縞瑪瑙を磨き上げて作った小さな爪。天女たちの指先からこぼれ落ち、地上に落ちて、朝露にぬれた草の葉にひっかかっていることがある。そっと拾いあげて、絹のハンカチに包んで持っているといい。大事な爪を探しにきた天女と友達になれるかもしれないから。
でも、ひとつだけ気をつけなきゃいけないことがある。天女の爪は真昼の強い光にあたると命を持って飛んでいってしまうんだよ。ベッコウハゴロモって知ってるかい。鼈甲色の翅をもった、小さなセミのような生き物のことさ。あれは日の光をあびて命をもった天女の爪なんだよ。
----珍獣舎『虫物語』より