町の北に金山(かなやま)と呼ばれる小さな山がある。この町の子供は小学一年のときに金山遠足に行くことになっている。山のてっぺんに、神社というにはあまりにも小さな祠があって、そこでお弁当を食べるのだ。
 ちよ子も一年のときに金山にのぼった。
「おや、遠足かい。お天気がよくて、ちょうどよかったね。雨の神様にお礼をいわなくちゃね」
 祠のまわりでお弁当を広げていた子供たちに、お参りに来ていたお婆ちゃんがそう言った。
 この神社には雨の神様がまつられている。むかし、ひどい干ばつがあって田んぼの稲が枯れそうになったとき、有名な神社から神様を呼んできて祠をたてたら雨がふり出した。それが金山神社のはじまりだと、遠足の前に先生から聞いた。
「あたしの小さい頃はねえ、晴れにしてほしいときは、赤い鼻緒の草履をおそなえしたんだよ。神様が草履をはいて遊びに行きたくなるから、天気が良くなるんだって」
 ちよ子は、白いひげを生やした腰のまがった神様が、赤い鼻緒の草履をはいて遊びに行く様子を想像した。かわった神様もいたものだ。
「じゃあ、雨をふらせたいときは?」
「あたしはやったことがないけど、傘をおそなえするといいって言うよ」
「神様が傘をさしてお出かけしたくなるから?」
「わけは知らないけど、きっとそうだろうねえ」
 新しい傘を買ってもらったら早く使ってみたいものだ。神様も人間と同じなのだと、ちよ子は思った。

 
次へ