塩尻駅で途中下車、玄蕃狐(げんばぎつね)に会いに行く

IMG_0391s 旅行記です。青春18きっぷを使って愛知県方面から東京まで帰ります。東海道線が好きじゃないというか、長野県あたりの風景が好きなので帰りも中央線を使います。塩尻駅で途中下車して玄蕃狐の像を見に行きました。

 わたしは西のほうへ行くと、少なくとも帰り道は中央線を使うことが多いです。中津川で途中下車して駅前のお土産屋さんで名物の栗きんとんやお茶を買ったり、岡谷でイルフ童画館やシルクファクトを見て塩イカを買ったり、上諏訪で降りて駅の足湯に漬かったり、暮れなずむ空を見たり… いろいろ楽しいです。

 何年か前、たぶん松本まで足を伸ばして松本城を見に行った時のこと、電車が塩尻駅を出るときに、駅のすぐ近くに犬か狼のような生き物の像が見えました。一頭が大きくて、二、三頭の小さな犬の像がまわりにあったと思います。早太郎やしっぺい太郎のような猿神退治の伝説の匂いがするので、いつか降りてみようとずっと思っていました。

 それで、今回は塩尻で途中下車しようと思い、問題の像について検索してみたわけです。でも、ぜーんぜんみつからない。駅前にそんな像があったら、普通誰かが写真のひとつもとっていると思うのです。一体どういうことなのか。

 そんなことを呟いたら、フォロワーさんが、犬ではなく狐のモニュメントらしいと、情報を探してくれました。さらに塩尻方面の情報を発信してる方から「玄蕃之丞という伝説のキツネの像で、一昨年駅前から撤去されて桔梗ヶ原神社に移設された」と教えてもらいました。

▲google map ストリートビュー。いずれ差し替えられちゃうだろうけど、この記事を書いている時点では2012年6月に撮影された街並みが見られる。バス停の後ろに玄蕃狐の像がかろうじて写っている。

玄蕃狐像(コメントあり) ▲ストリートビューが更新されちゃった時のためにキャプチャもしておく。google mapの画像は改変しないことが条件でサイトに転載していいことになってるはず(矢印をつけたりすんのも厳密にはダメかもしれない、汗)。

 この像が、一昨年撤去されて徒歩15分くらいの神社に移されたわけですね。そこまでわかったら見に行かねばなりますまい。というわけで塩尻で途中下車決定。

 まず、狐の像があった場所に行ってみる。 IMG_0373s ▲ここが玄蕃狐像の跡地。更地に妙な顔出し書き割りが置いてあった。塩尻四宿400年を記念して、皇女和宮様の御下向行列を再現するって書いてあった。その行列になったつもりで顔を出して記念撮影するといいよってことらしい。

 こんな書き割りのために像を撤去したのならお笑いだけど、まわりの花壇もなくなってるみたいだから、ここに何か建てる予定で更地にして、工事が始まるまで書き割りを置いてるだけみたい。一体何ができるのでしょうか。

 さて、玄蕃狐の像は、桔梗ヶ原神社ってところに移設されたと聞きました。iPhoneで場所を調べてみると、駅の反対側出口から徒歩で15分くらいのようです。

IMG_0375sIMG_0374s ▲左:塩尻駅。西側はちょっと殺風景で寂しい。右:駅を背にすると、まだ雪の残る山が見える。駅前は寂しいけど、この景色は胸がスーッとする。まさに信州。

IMG_0378sIMG_0380s ▲左:こんな道の先に神社がある。まわりはたぶん葡萄畑。右:畑のあっちこっちにプロペラがある。静岡方面の茶畑で同じのを見た事がある。

 駅からすたこら歩いて「え、ここ?」みたいな曲がり角を曲がる。まわりは葡萄畑、遠くには雪の残る信州の山並み。なぜか信州一味噌のCMを思い出してしまう。おかーさーーーーーん、シュッシュポッポシュッシュポッポシュッシュポッポー(しゅっしゅぽっぽー)、信州一、信州一、おみおつけ。

 葡萄畑の中に柱がたっていて、無数のプロペラがついてる。風力発電にしてはプロペラの向きがおかしい(下を向いてる)。何だろうなと思って調べたら、霜(しも)の害をさけるための仕組みだそうです。霜が降りるような夜でも、上空には少し暖かい空気があるので、プロペラで下へ送ってやると霜にやられなくなるのだとか。

IMG_0381sIMG_0382s ▲左:桔梗ヶ原神社の鳥居。葡萄畑の中にあった。右:社殿。桔梗ヶ原というのはこのあたりの古い呼び名だそうです。

IMG_0383sIMG_0388s ▲左:社殿の脇に玄蕃狐の像が! 右:鳥居の奥には玄蕃稲荷。玄蕃(げんば)は、たぶん昔のお役所の部署名みたいなやつではないかと。刑部狐(おさかべぎつね)なんかと同じようなネーミングだと思うんですが、どうなんでしょう。

IMG_0391s ▲これが玄蕃狐の像。駅前にあった頃は、台座の下にワイン樽が三つ重ねて置いてあり「ワインと遺跡のまち」って書いてあったらしい。樽は持ってこなかったのか。

 玄蕃狐の像はこのとおり神社に設置されていましたが、移されてから二年くらいたってるわりに、ついさっき持ってきました感がただよう状態でした。たぶん工事中のロープみたいなものがいかんのでしょうね。危ないから近寄るなっていう意図はわかるんですけど。左に写ってる立て札には「あぶない ここで あそんでは いけません 桔梗ヶ原神社」と書いてあります。

IMG_0395s ▲玄蕃狐については、赤い鳥居の脇に立つ杭にちょっと書いてあるだけだった。「広大な桔梗ヶ原の各所に散在する玄蕃稲荷の中でも由緒あるものの一つである。(裏)昭和五十五年四月建立 塩尻市史談会 塩尻市老人クラブ連合会」

 ふむー、現地まで来てみたものの、結局なんなのかよくわかりません。玄蕃稲荷社が沢山あるのはわかりましたが、玄蕃狐って結局なんなの? 化け狐らしいですけど。

 帰宅してから長野県の昔話の本を読みました。桔梗ヶ原には、かつて玄蕃允(げんばのじょう)という狐がいて、四匹の家来とともに人を化かしていたそうです。玄蕃之丞だけでなく、家来も一匹ずつかなりキャラのたった連中で、その妖力で松本城のお殿様を化かしたこともあるし、芝居をかけて人々を喜ばせたこともあるそうです。

 しかし、時の流れには逆らえないのでした。人間が鉄砲を持つようになると、一匹減り、二匹減り、次第に数も少なくなってきます。そうして明治35年、松本から南に汽車が走るようになりました。おそらくその汽車にはねられて死んだ仲間もいたことでしょう。

 ある日のこと、汽車が桔梗ヶ原にさしかかると、向こうから別の汽車が同じ線路を走ってくるのが見えました。機関士は青くなってブレーキをかけましたが間に合いません。正面衝突で一巻の終わりだ……そう思った瞬間、むこうの汽車は煙のように消えてしまいました。なるほど、これが桔梗ヶ原の狐か、大した化けっぷりだと機関士は感心するやらあきれるやら。

 そうした出来事は度々おこりました。桔梗ヶ原を汽車が走り抜けようとすると、同じ線路をこっちへ向かって猛スピードで走ってくる汽車に会うのです。機関士は狐の仕業だとわかっていますが、万が一のことを考えるとブレーキをかけないわけにはいきません。何度も何度もだまされて、桔梗ヶ原でブレーキをかけるのです。

 しかしとうとう、機関士は決意して、汽車を止めずに走り抜けようとしました。スピードを緩めずに相手の汽車に突っ込むと、何かにぶつかったような衝撃がありましたが、何ごともなく走り抜けることができました。

 翌日、線路脇に大きな白い狐が死んでいるのがみつかりました。それが玄蕃狐だったのでしょう。それ以来、桔梗ヶ原で狐に化かされる人はいなくなったということです。

 まるで「平成狸合戦ぽんぽこ」の狐版のような切ないお話でした。 駅前の黄色いポイントが、一昨年まで玄蕃狐の像があった場所。 駅の西、少し離れた緑のポイントが桔梗ヶ原神社で、今はこの境内に玄蕃狐の像がある。

カテゴリー: 旅行, 街歩き タグ: , , パーマリンク
avatar

珍獣ららむ〜 の紹介

特技はおりがみとお蚕の飼育と世の中の役にたたないこと全般です。養蚕が普通の仕事だったらニートでヒキコモリの体質から脱出できそうな悪寒がします。DQ10はほぼ引退しました…だってストーリーが完全にソロゲーなんだもの。/ちなみにわたしが珍獣を名乗っているのは1999年からで、イモトよりも古いです。ワンピースは知らん。イモトですねって聞かれるとあっちがマネだと答えたくなる。 twitter などでは chinjuh です。

塩尻駅で途中下車、玄蕃狐(げんばぎつね)に会いに行く への4件のフィードバック

  1. 武邑くしひ のコメント:

    霜除けのプロペラは、こちら(鹿児島)の茶畑でよく見かけます。

    • 珍獣ららむ〜 のコメント:

      ほほー、霜よけプロペラは普及してるんですね!

  2. ピンバック: #青春18きっぷ 岡谷・名古屋・高山の旅 | 超・珍獣様のいろいろ

  3. ピンバック: 狢塚(亀有・見性寺) #神社仏閣 | 超・珍獣様のいろいろ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>