今回はいろんなものに繭を作らせてみたので、どうなったか少しずつ紹介しようと思います。下の写真は桑の葉に作らせたものです。
▲葉っぱから繭をはがしてみました。繭がふわふわした糸に覆われているのがわかりますか? この糸のことを養蚕用語では「けば」といいます。
お蚕は、まず自分のまわりに糸をはりめぐらして、その中に浮かぶような形で繭を作ります。自分のまわりにあるものが葉っぱだと、葉っぱはやわらかいので糸に引っ張られてたわんできます。最終的には、繭が葉っぱに包まれてしまうというわけです。
▲繭からけばをとってみました。けばは手で簡単にむくことができます。繭をよく見てください。少しひしゃげていることがわかりますか? 葉っぱの跡がついてしまったんですね。
比較のために、テトラ簇(牛乳のテトラパックみたいな形の簇です。ひとつ前の記事を読んでみてください)からも繭を出してみましょう。
▲左:桑の葉に作らせた繭|右:テトラ簇に作らせた繭。テトラ簇のほうがきれいな形の繭になりました。
江戸時代の養蚕農家は、藁(わら)や、木の枝を束ねたものを簇(ぞく、または、まぶし)にして、繭をつくらせました。しかし、それだときれいな繭ができなかったり、簇から繭をはずすのが手間だったり、あまり作業効率がよくなかったようです。
それで、もっと効率の良いものがもとめられて、区画簇(ボール簇)や、百年簇のようなものが考え出されて、今日に至ります。
繭の中でいつ蛹になるか?
ところで、繭になってしまうと、中がどうなっているかわからなくなりますよね。
観察用ならカッターで切り開いて中を見ればいいのですが、糸にしたいなら繭を傷つけるわけにはいきません。では、中のお蚕がきちんと蛹になっているかどうか、どうやって判断すればいいでしょうか?
お蚕は、糸を吐き始めてから三日で吐き終わり、そのあと脱皮して蛹になると言われています。つまり、糸を吐き始めてから、だいたい五日くらいで蛹になっている予定です。さらに五日(通算十日)もたつと、今度は羽化といって、蛹から蛾に変わって、繭を食い破って出てきてしまいます。ですから、五日から十日の間をとって一週間くらいで簇から繭をはずします。
お蚕が繭になったら、繭を手にとって振ってみましょう。中で、コロコロっといい音がしたら、もう蛹になっていると思います。音がしない場合は中でまだ糸を吐いているかもしれないし、蛹になる途中かもしれません。
中の虫が蛹になったらどうするか?
お蚕が糸を吐き始めて一週間ほどたったら、簇から繭をはずして、中の蛹を殺してしまわなければなりません。
え、殺しちゃうの?!と思うかもしれませんが、糸を取るためには仕方がないのです。
中の蛹が蛾になって、繭を食い破って出てくると、その繭からはもう生糸(普通の絹糸の元)がとれません。紬(つむぎ)という糸にはできるのですが、用途が限定されてしまうので、蛾になる前に殺してしまいます。農家では、加熱して殺すそうですが(具体的にどういう方法かは、わたしも見たことがないのでわからないんですけどね)、一般家庭で数百個くらいなら、繭を冷凍庫に入れるのがいいと思います。一晩も入れておけば蛹が凍って死ぬはずです。うちではその後も使うまで冷凍庫に入れっぱなしだったりしますが、一晩たったら出して、日にあててよく乾燥させれば、常温でも保存できるはずです。入れるのは「冷凍庫」、氷ができる方ですからね。冷蔵庫では蛹は死にません。注意してください。
大事に育てたものを殺すのは抵抗があるかもしれませんが、お蚕は、愛玩動物ではありません。お蚕は牛や豚のような家畜と同じで、人が利用するために育てられています。
お蚕は野生には存在しない虫です。お蚕の元になったといわれる虫(クワゴまたはクワコ)は野生にいますが、その虫はお蚕とは性質が違い、現在では別の虫です。
お蚕がこの世に存在しているのは、人が利用するからです。もし人間が、お蚕に利用価値をみつけられなくなったら、飼うのをやめてしまうはずです。自然界に存在しない生き物を、人が飼わなくなったらどうなるでしょうか。逃げ出して野生化する? いえいえ、お蚕は野生では生きられないのです。だって、お蚕は蛾になっても空を飛べないし、餌を求めて遠くまで歩くことさえできないんですから。もし逃げ出して生きていけるものなら、もうとっくの昔にそうなってるはずです。しかし、野生にはお蚕はいません。
人がお蚕を飼わなくなったら、お蚕はこの世から消えてしまいます。お蚕は人に利用されているから生きています。もしお蚕が好きなら、お蚕の繭から作られる絹製品にも興味を持ってください。結局のところ、それがお蚕という生き物を保護することになるのですよ。
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