チコリと呼ばれるものには二種類ある。ひとつは小さな白菜のようになるもので学名は
Cichorium
Intybus という。もうひとつは葉がちぢれたレタスのようになるもので学名は
Cichorium
Endivia という。
チコリというのは学名の Cichorium からとったものだから、どちらをチコリと呼んでも問題はないが、エンダイヴはちぢれたレタスのようなものの学名の一部なのだから、C.intybus
に対してエンダイヴとういのは納得できない。
ところがフランスでは C.intybus を endive(アンディーヴ)と呼び、
C.Endivia
を chicoree frisee(シコレ・フリゼ、ちぢれたチコリ)などと呼ぶので話がややこしい。日本でも最近まで呼び名が混乱していたし、ヨーロッパ各国のサイトを学名で検索しても、やはり名前に混乱がみられる。
中国語では(これも検索でしらべたレベルではあるが) C.intybus
を菊苣とし、C.Endivia を苦苣とするサイトをいくつかみかけたが、キクヂシャ(菊苣)もニガヂシャ(苦苣)も和名ではエンダイヴ
C.Endivia のことなので非常にまぎらわしい。
ここでは学名を尊重して C.Endivia をエンダイヴ、C.intybus
をチコリと呼ぶことにするが、 Endivia という言葉はラテン語の intybus
が変化したものだともいうのでさらにややこしい話である。ようするに昔は呼び分けてはいなかったのだろう(参考[広告]>平凡社『花ことば(上)』
『花ことば(下)』)。
チコリ(C.intybus)とエンダイブは(C.Endivia)学名を見るかぎり別の種に分類されているが、資料によってはチコリをエンダイヴの変種としている本もある(参考[広告]>新潮社
『料理材料の基礎知識』)。動植物の分類は研究が進むと変わることがある。かつては同種として扱われていたのかもしれない。
少なくとも現在はチコリとエンダイブは同属の別種ということになっているが、なにかと比較されることが多いので、両者をならべて紹介しようと思う。
チコリとエンダイヴの歴史は古く、プリニウスの『博物誌』にも、すでにその名が見られる。地中海原産でヨーロッパにあるのをインティブム、エジプトに自生するものをキコリウム、その栽培種をセリスと呼ぶとある。これらをプリニウスはレタスの仲間であると言っている。
残念ながらそれらのどれが現在のチコリやエンダイブにあたるものなのかはよくわからない。二千年前の話であるから、品種改良も加えられておらず、現在食べているものとはだいぶ形が違っていたかもしれない。味については苦いとあり、現在のチコリ・エンダイブと一致している。
古代エジプトでキコリウムはスイレンの次に有名な植物だったという。葉を食用にするのはもちろんだが、煎じ詰めて飲めば便秘をなおし胃や肝臓を強くするなどの薬効があるとしている。また、チコリを潰してとった汁に油をまぜて体に塗ればその人の評判をあげ、欲しいものを手に入れやすくなるとも書かれている。強い根を使って綱を作ることがある。空に昴が上るころというから春から初夏にかけてと思うか、根から芽をふくという。
一方インティブムは地中海で見られるもので、これを栽培するには土に豚の肥をよくまぜて、育成を始めたら砂で埋め、葉がのびてきたら絡げて日にあてないようにすれば、中心が白いまま育つという。これは現在のエンダイヴやチコリの育て方と同じである。またインティブムの葉はオニタビラコに似ているとある。だとすれば、現在チコリと呼んでいるものに見た目は近い。(参考[広告]>雄山閣
『プリニウスの博物誌(全3巻)』)。
日本に入ってきたのは戦後のことかと思っていたが、おどろいたことに十八世紀に作られた『大和本草』という本にオランダチサという名前で収録されているそうだ(参考[広告]>TOTO出版『野菜物語』)
『本草綱目啓蒙』にヲランダヂサの名が見える。別名をハナヂサ、キクヂサと言って、生でも煮ても良いとあるが、苦いという記述はない。タンポポに似た青い花が咲くとあるのでチコリのことではないかと思われる。