かちかち山 |
むかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは畑をあらす狸(たぬき)をつかまえて、 「ばあさんや、明日はこの狸で汁でもつくってくれや」 といって、狸をふんじばって天井からつるしておきました。 次の日、おじいさんが畑へ行ってしまうと、おばあさんはペッタラペッタラ粟餅(あわもち)をつきはじめました。すると、天井からぶらさがっている狸が
狸がなんどもたのむので、おばあさんはとうとう縄をほどいて狸に杵(きね)をもたせてやりました。すると、たぬきはおばあさんを後ろから杵でなぐり殺してしまいました。 それから狸はおばあさんの肉で婆汁をつくり、自分はおばあさんに化けておじいさんがかえってくるのをまちました。おじいさんがかえってくると、
おじいさんは何もしらないので、おばあさんの肉でつくった汁をおいしそうに飲みながら、
けれども朝になると、狸はケラケラ笑いながら
おじいさんが庭を見にいくと、おばあさんの着物と骨がおちていました。それでやっと、ゆうべ食べたのはおばあさんの肉汁だったと気がついて、わんわん声をあげて泣きだしました。 そこへ、山から兎(うさぎ)がやってきて、
兎は狸の家をたずねると、
萱をたっぷり刈りとって、よっこらしょと背負って山をおりました。狸がさきに、兎があとになって山道をおりてゆくと、兎は火打ち石をカチカチうちつけて、狸の萱に火をつけようとしました。
狸は「ふーん、そうか」とへんじをして、また山をおりていきました。兎は萱がよくもえるように、後ろからぶーぶー息をふきかけました。
すると、狸の萱がごうごう音をたててもえだしました。
狸は「へえ、そうかい」とへんじをして、また山をおりていきましたが、とうとう萱がもえあがって狸の背中がやけはじめました。
それからしばらくして、狸がのこのこあるいていると、兎がタデの葉をもんでいるのに出会いました。
それで狸は、なんだちがう兎だったのかとあきらめて、
狸は兎に火をつけられて、大やけどをしていましたから、
またしばらくして、狸がのこのこあるいていると、松山の松林で、兎が松の木を切っていました。
「ところで兎どん、あんた何をしているんだい」
兎がそういうので、狸は黒い土をたくさんはこんできました。兎は土と松ヤニをこねて舟の形にして、自分は松の木をくりぬいて木の舟をつくりました。 舟ができあがると、海までかついでいって水にうかべました。木の舟も、土の舟も、さいしょのうちは水にうかび、すいすいとよくはしりました。 そのうち、兎は舟べりを櫂(かい)でたたきはじめました。
そこで狸は兎のまねをして、櫂で舟べりをたたきはじめました。ところが狸の舟は土でできているので、ぼこっと音をたててこわれてしまいました。そのまま狸は海へずぶずぶっとしずんでゆきましたとさ。
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◆こぼれ話◆
日本五大昔話のひとつ。おじいさんが狸をつかまえてくるくだりにはバリエーションがある。今回は長くなるので割愛したが、たとえば次のような話も面白い。 おばあさんが庭で豆を三つひろい、黄粉にしてたべましょうと言うが、食べてしまえばそれっきりになるので、半分は種にして畑にまくことにする。話の発端がたった三粒の豆というのだから、農民の苦労がしのばれる。黄粉にしようと搗いているうちに増えるというのも、わずかな豆で腹をふくれさせる工夫を誇張して言ったものかもしれない。 それはともかく、この話を聞くと思うのは、昔の人は四つ足の動物を食べないと言うのになんだかんだ理由をつけて獣の肉をよく食べていたのではないかということ。ありがちなところでは「兎はうしろ足二本でとぶ生き物だから獣ではなく鳥」だとか、「猪はモモンガが年をとったものだから鳥」または「猪は山にいるが鯨と同じものだから魚」などなど。狸汁というのも昔話にはよく出てくる気がする。本当に狸が食用にされていたのなら、鳥や魚にたとえた名前があるんじゃないかと思うが耳にしたことはない。 |
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