御徳政(ごとくせい) |
町ではもうすぐ御徳政(ごとくせい)が出るといううわさでもちきりでした。御徳政というのは、借金を帳消しにしたり、貧乏のために仕方なく罪をおかした人を牢から出してやったりする命令のことです。 ある宿屋の主人は欲の皮がつっぱっているので有名でした。お金をもうけるためならなんでもする男で、御徳政を利用してなんとかお金をもうけられないかと頭をひねっておりました。 さて、御徳政が出るという前の日のことです。欲張りな宿屋にひとりの旅人がおとずれました。しめた、と思った主人は、
翌日になると、朝いちばんで御徳政のおふれが出されました。旅人が宿を出ようと、
すると宿の主人は
これには旅人はこまってしまいました。お金も荷物もかえしてもらえないのでは一文なしになってしまいます。旅をつづけられないばかりか、家にかえることさえできません。 そこで旅人は、宿屋のひどいしうちを奉行所にうったえ出ました。宿屋の主人もよびだされ、お奉行(ぶぎょう)さまはことのしだいをすっかり聞いてしまうと、
旅人はなさけない声でいいました。
「めっそうもない。家をあけわたすとは、いったいどういうことでございましょう」
すると、お奉行さまはこういいました。
こんどは宿屋がおおよわり。宿をとりあげられては商売になりません。旅人に荷物をかえし、ゆるしてもらうことにしました。 欲張りな宿屋をとっちめたお奉行さまは、北条泰時(ほうじょうやすとき)という人で、のちに執権職(しっけんしょく)という立派なおやくめにつき、将軍さまのつぎにえらい人になったそうです。
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