姥捨て山
 
 
 その国では、年をとってはたらけなくなると、山へ捨てなければならないきまりがありました。

 あるところに、たいへん親孝行な息子がいました。おっかさんも六十をこして、足腰がよわってくると、国のきまりだというので、しかたなくおぶって山にすてに行きました。

 山の奥までくると、息子は背中でバキンと音がするのに気がつきました。
「おっかあ、みょうな音がするが、どうかしたかい」
息子がそういうと、おっかさんは、なんでもないよとこたえました。

 だいぶのぼってきたところで、息子はおっかさんをおろしていいました。
「かなしいことだが、国のきまりだで、ここでお別れだ」
 すると、おっかさんは、いいました。
「気にすることはないよ。どうにかやっていくからさ。お前こそ、まよわず家にかえるんだよ。道中こうやって枝をおって落としてきたから、たどってかえりなさい」

 それをきくと、息子はもうたまらなくなって、おっかさんを背負って、いちもくさんに家にかえってきました。こんなやさしいおっかさんを山にすてることなんかできません。息子は床下に穴をほって、おっかさんをかくまうことにしました。

 それからしばらくして、となりの国の殿さまが、この国の殿さまにむずかしい謎をしかけてきました。灰で縄をなえというのです。
 この国の殿さまもかしこい人でしたが、これにはすっかりまいってしまいました。そこで、国中に、
「灰で縄をなえたものには褒美をあたえる」
と、おふれを出しました。

 息子はそのおふれを床下のおっかさんに話しました。すると、おっかさんは、そんなことかんたんだよと、笑いながら
「藁(わら)でかたく縄をなって、板の上で焼いてごらん。縄のかたちに灰がのこるから、くずさないようにそっともっていけばいい」
と、おしえました。

 息子は、母親からきいたことはないしょにして、そのことを殿さまに申し上げました。実際にやってみると、そのとおり灰で縄ができたので、殿さまはたいへんよろこんで、
「そなたの知恵をみこんで、もうひとつたのみがある。たたかなくても鳴る太鼓のつくりかたを考えてはくれまいか」
と、いいました。

 息子は家にかえり、おっかさんにそのことを話しました。おっかさんは、しばらく考えこんでから、こんなことをいいました。

「山で蜂(はち)の巣をとってくるんだよ。太鼓の皮をはがして、中に蜂をいれて、また皮をはればいい。蜂は中であばれて皮にあたるから、ひとりでにぽんぽん鳴るだろうさね。
 それともうひとつ、太鼓の胴に小さな穴をあけておきな。それから、お殿さまにこう申しあげておくれ。となりの国の殿さまにこの太鼓をわたすとき、しめきった部屋で、たったひとりで、明かりのちかくで見るように伝えてほしいと」

 息子は、おっかさんがいったとおりのことを、殿さまに話しました。殿さまは、そのとおりのものをつくって、となりの国の殿さまにわたしました。となりの国の殿さまは、人ばらいをして部屋をしめきると、明かりのそばでつつみをあけました。

 すると、太鼓のなかで蜂があばれはじめ、ひとりでにぽんぽん音がなりはじめました。そのうち、胴にあけた小さな穴から、蜂がでてきて殿さまの顔を刺しました。あわてて人をよびましたが、殿さまは何度も蜂にさされて熱をだしてねこんでしまいました。

 こうして、この国の殿さまは、となりの国の殿さまからの無理難題をすっかりといたうえに、しっぺがえしを食らわせました。殿さまは上機嫌で息子にいいました。
「そのほうは大変な知恵者である。褒美には何がほしいかね」

 そこで、息子は、
「おそれながら、お殿さま。これまでの知恵は、わたしのものではなく、母に教えられたことでございます」
と、老いた母親を床下にかくまっていることを話しました。

 それをきいた殿さまは、年よりの知恵がどんなにすばらしいか気づいて、これからは、年をとってはたらけなくなった者を、山にすてず、だいじにやしなうようにと、おふれを出しました。
 

◆こぼれ話◆

 おっかさんの知恵にはいくつかのバリエーションがある。下にあげたもの以外にもあるはず。集めてみたら楽しい。

灰で縄をなう方法(↑本文参照)
 きつく縄をなって、そうっと燃やして灰にする。縄を塩水につけて乾かしてから燃すというのも聞いたことがある。

叩かなくても鳴る太鼓を作る方法(↑本文参照)
 太鼓の中に生きた蜂を仕込んでおいて、明るいところへもってゆくと、蜂が目を覚まして中で暴れる仕掛け。ついでに太鼓の胴に小さな穴をあけておけば蜂が出てきて難題をふっかけてきた殿さまにしっぺ返しをくらわせることもできる。

曲がりくねった竹の筒に縄を通す方法
 はしっこに砂糖をおいて、糸をむすびつけたアリを中にいれれば、砂糖にひかれてアリが筒をとおる。あとは糸のはしに縄をむすんで、向こう側から糸をひけば縄が通る。

太さの均一な丸い棒の、どちらが根か先か調べる方法
 これにはいくつかの解き方がある。棒を静かに水にはなつと、しずむのが根で、浮くのが先。もうひとつは、棒を川に浮かべて流れる様子を見ると、先頭になって流れてゆくのが先、尻になるのが根。

同じ色・形の蛇のオスメスを見分ける方法
 真綿をしいて蛇をはわせ、真綿から出てきたのがオス、そのままはっているのがメス。

同じ色・形の板のオスメスを見分ける方法
 水に放り込んで浮いたのがオス、沈んだのがメス。

 
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