魚女房
 
 むかしあるところに、ひとり者の男がいました。ある日、子供たちが、皮で大きな魚をいじめてあそんでいるのを見て、
「これ、生き物をむやみにいじめてはいけない。銭をやるから、おらにその魚を売ってくれ」
といって、魚を買いとると、川にはなしてやりました。

 その日の夜、男の家にうつくしい女の人があらわれて、自分を嫁にしてほしいといいました。自分のようななんのとりえもない男のところに、おしかけ女房というのも変な話だと思いましたが、男はひとりものだったので、そのまま女と夫婦になり、いっしょにくらしはじめました。

 はたらき者の嫁さんで、何をやらせてもそつなくこなしましたが、料理がとりわけ上手で、なかでも女のつくったみそ汁は、何で出汁をとったのか絶妙な味でした。

 あんまりうまいので、どうやって作るのか気になって、男は仕事にでかけるふりをして、こっそりかくれて見ていました。
 女は大きな鍋に水をいれ、味噌をとかしました。それから着物をぬいではだかになり、魚のすがたになって鍋にとびこみ水をあびはじめました。そうやって出汁をとってしまうと、また鍋からあがって女になり、はたらきはじめました。

 男は、今帰ったという顔をして、家にもどりましたが、夕飯にでてきたみそ汁を、どうも飲む気になれずにのこしてしまいました。
 それを見た嫁さんは、
「出汁をとるところを見てしまったのですね。もはやここにはおられません。長いことお世話になりました」
と、いって、魚のすがたになると、流しから川へにげていきました。
 

 
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