運定め |
むかし、あるところに、たいそうな金持ちの旦那がいた。 奥さんが身重で、下働きの女中も身ごもっていた。 ある日、旦那が遠くの町へ用足しに行ってかえってくると、途中の山道で日がくれてしまった。 しかたなく、大きな木の下で野宿していると、真夜中に誰かが近づいてくる。 山賊だろうかと、息を殺して様子をみていると、
山の神さんは、ふもとの村でお産があるから、赤ん坊の泣き声を聞きに行こうと言った。
どうやら、ふいの客人というのは旦那のことらしい。
旦那は、山の神さんが見てきたというお産が、自分の妻と女中の子ではないかという気がしてならなかった。
すっかり山の神さんの言うとおりなので、こりゃあ、どうあっても夫婦にしなけりゃならないと、すっかり話をとりきめて、赤ん坊のうちから女中の娘をわが子のようにかわいがって育てた。
次の日、娘がお堂の前で待っていると、神様の話のとおり、炭俵をかついだ若者がとおりがかった。
炭焼の若者は、食うや食わずの生活をしていたが、娘を嫁にしたとたん運がまわってきて、たちまち豊かになっていった。
それから月日はながれ、ある日、みすぼらしい姿の男が杖をついて現れて、
聞けば、娘が出ていってからというもの、家がかたむいて財産は底をつき、残ったのは杖一本。毎日ものごいをして歩きまわっているという。 赤ん坊は自分の運命を叫びながら産まれてくる。けれど、人間の浅はかな知恵では赤ん坊の声を聞き分けることはできない。なにもかも、すっかり神様のいうとおりなり、杖一本の息子は、塩一升の娘の屋敷でやとわれて、なんとか暮らせるようになったということだ。
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◆こぼれ話◆
東北にも関西にも伝わっている昔話。遠野では後半が「炭焼長者」という別の話になっていることもある。 |
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