あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。
おばあさんが川で洗濯をしていると、大きな瓜がながれてきました。もってかえって切ってみると、中からかわいい女の子が生まれました。瓜からうまれた子供だから、瓜子姫と名づけられ、だいじに育てられました。
瓜子姫が七つになると、おじいさんは機屋をたててやりました。瓜子姫はよろこんで、朝から晩までキンカラリン、トントントンと、布を織っていました。
ある日、おじいさんとおばあさんは、瓜子姫を家にのこして町に用足しに行くことになりました。
「瓜子姫や、誰が来ても戸をあけてはいけないよ。山からおそろしい天邪鬼がくるかもしれないからね」
そういって、ふたりは町へ行ってしまいました。
瓜子姫が機屋で布を織っていると、
「おーい、瓜子姫、ここをあけてくれよう」
という者がありました。おじいさんがいっていた天邪鬼だと思って、戸をあけませんでした。
けれど天邪鬼はあきらめません。
「あけてくれよう。爪の先がはいるくらいでいいから」
と、しつこくいうので、瓜子姫はほんの少しだけ戸をあけてやりました。
すると天邪鬼は、長い爪を戸のすきまにつっこんで、がりがりと力まかせに戸をあけて、
「瓜子姫、長者どのの裏にうまい桃がなってるぞ。もぎにいこう。おらがとってやるから」
といって、瓜子姫の草履(ぞうり)をそろえて出しました。
瓜子姫が
「草履の音はぽんぽんなるからいや」
というと、
「そんなら下駄(げた)をはいていこう」
と、天邪鬼は下駄をそろえて出しました。
「下駄はカランコロンなるからいや」
というと、天邪鬼は
「おらがおぶってゆく」
といいました。
「あんたの背中には刺がはえているからいや」
と、瓜子姫がいうと、
「なら桶にいれてせおっていくべえ」
といって、天邪鬼はどこからか桶をもってきて、瓜子姫を中にいれると背中にしょって、長者さんの裏にかけていきました。
それから天邪鬼は、まず自分が木にのぼって、おいしい桃をむしゃむしゃ食べはじめました。そして、下でまっている瓜子姫には、かたくてまずいのや、自分がたべたカスを投げつけました。
それで瓜子姫は、こんどは自分が木にのぼることにしましたが、天邪鬼は下から見て
「そこじゃない、もっと上にうまい桃があるぞ」
といって、瓜子姫をどんどん高くのぼらせました。そして、これ以上のぼれないところへくると、
「たいへんだ、長者どんのばばがくるぞ」
と、大きな声を出したので、瓜子姫はびっくりして、木から落ちて死んでしまいました。
天邪鬼は瓜子姫の皮をはいで、それを自分でかぶると、もうすっかり瓜子姫とそっくりになって、家にもどって布をおっていました。おじいさんと、おばあさんがかえってきて「天邪鬼はこなかったかい」ときても「こなかったよ」と、すました顔でいいました。
しばらくして、おばあさんは餅をついて重箱につめると、
「瓜子姫や、これを長者どんの家にもっていっておくれ」
と、いいました。
瓜子姫は重箱をもってでかけましたが、途中でぜんぶ自分でたべてしまい、からっぽの重箱をもって家にかえりました。そして、
「おばあさん、長者さんの家にいったら、お餅をあと一重もってきたら、お嫁にもらってくれるといってた」
と、ウソをいうので、おばあさんもおじいさんもよろこんで、また餅をついて姫にもたせました。
瓜子姫は餅をもって長者どんの家にいき、
「嫁にもらってくだされ」
といいました。長者どんは息子の嫁にちょうどいいと、嫁取りの約束して、瓜子姫をかえしました。
瓜子姫が家にかえると、おじいさんもおばあさんも娘が長者どんの嫁になると大よろこびしましたが、どこからかカラスがとんできて、
「長者どんが天邪鬼をよめにする、かあかあ」
と、なきました。
それをきいて、おじいさんは瓜子姫を川につれていって、顔をあらわせると、ひたいのあたりばかりてらてらなでているので、
「それじゃきれいにならんだろう」
と、ごりごりあらってやりました。
すると、化けの皮がはがれて中から天邪鬼がでてきました。おじいさんとおばあさんはカンカンにおこって、天邪鬼を萱(かや)の原で引きずりまわしてこらしめたので、天邪鬼の血がざんざん流れて、萱は根元が赤くなりました。
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