湖に消える女たち
 
 
赤城小沼の主(群馬県佐波郡赤堀村、現:伊勢崎市赤堀町)
 群馬県赤堀村の道元という長者の娘が「赤城小沼の水を飲みたい」というので沼につれていくと、娘は長者夫婦の制止をふりきって沼に身をおどらせた。

 まもなく水面から娘が姿を現したが、下半身が龍に変化していた。娘は「わたしはもともと赤城山の竜神の娘として生まれるはずの者でした」と言って沼に沈んでいった。

 これが三月三日の節句の出来事だったというので、毎年その日になるとお盆に菱餅をのせて沼に浮かべる。お盆はひとりでに沼の真ん中まで流れて行きくるくる回って沈むという。また、道元の家には今でも娘の体から落ちた龍の鱗が二、三枚残っているという。
 

大蛇になった寺のばあさん(群馬県吾妻郡)
 むかし、寺のばあさんが、どうしても榛名湖に行きたいと言い出してきかないので、家の者が連れて行くことにした。

 榛名湖につくと、湖から大蛇があらわれてばあさんをひとのみにして姿を消した。家の者が呆然としていると、湖から今度は別の大蛇が現れて、

「わしじゃよ、ばあさんじゃよ。こんな姿になってしまったから、これ以上は見ないでくれろ」

と言って湖に姿を消した。

 それからというもの、ばあさんの命日である五月二十日になると赤飯を重箱につめて湖に沈める。すると必ず重箱がもどってきて、中には大きな蛇の鱗が二、三枚は言っているということだ。
 

 
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