食わず女房 |
むかしあるところにケチんぼうな男がいて、いつまでもひとり者でいるから、親類が心配して縁談をまとめてくれようとしました。 しかし、男はその話を断って「嫁などもらったら無駄に飯が減るばかりだ。飯を食わぬ女なら嫁にもらってもいい」といいます。こんな偏屈な男じゃ誰も嫁には来てくれまいと、親類の人もあきらめてしまいました。 ある日、ケチな男のところへ美しい女性がたずねてきて、「わたしは決してご飯を食べません。ですからお嫁にもらってください」と言いました。男は、本当に飯を食わぬというなら好きにしろと、その女を嫁にもらいました。 はたしてお嫁さんは本当に何も食べませんでした。男が飯を食べている間も、にこにこして見ているだけです。しかも働き者でした。男は、いい嫁をもらったと、たいそう満足していました。 ところが、ある日男が米びつをのぞいてみると、たくさんあったはずの米が少ししか残っていません。さては、嫁が隠れてものを食っているのではないかと、畑仕事に行くふりをして、こっそりかくれて様子を見ていました。 するとどうでしょう。嫁が大釜いっぱいの米をたきはじめました。それから島田に結った髪をほどくと、髪の分け目に大きな口がぱっくり開きました。嫁は握り飯を作って、頭の口にポイポイと放り込んで行きました。 男は恐くなって、そっと家を出て、今畑から帰ったような顔をしてもどってきました。けれど嫁のほうは、男に見られたことに気づいていて、 「そろそろ里に帰らせていただきたいのですが」 と、言うなり山姥(やまんば)の本性をあらわして、男を背負いカゴに入れてものすごい速さで山を駆け上って行きました。 このままでは殺されてしまいます。男は途中の木の枝につかまり、どうにかカゴから抜け出しました。山姥は男がカゴから出たのにも気づかず、山奥へ行ってしまったということです。
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◆こぼれ話◆
この話の後半が端午の節句の由来になっていることがある。この場合里帰りの理由に「もうすぐ五月のお節句ですから」と山姥が言い訳することがある。男が木の枝につかまって逃げると、山姥が気づいておいかけて来るが、男が菖蒲やヨモギの茂みに入ると、匂いをおそれて山姥が近づけない。もしくは、匂いの強い草にふれることで山姥の体が溶けてなくなってしまう。以来、五月五日のお節句に菖蒲湯に入る、または菖蒲やヨモギを軒先からつるすようになる、という由来につづく。 また、飯食わぬ女房の正体は蜘蛛だったとする話もあるらしい。 |
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