鬼が悪さをするわけ
 
 
 ある山に鬼が住んでいた。
 角をはやらかして、恐い顔をしていたが、鬼どもは悪さをするでもなく、おとなしく暮らしていたという。
 ある日、鬼の大将が、人間の娘を見初めて、どうしても嫁にしたいと思った。
 そこで百日の間、宝を手みやげに娘の家に通ったが、父親がどうしてもうんと言わない。
 鬼はとうとう、娘が遊びにでかけるのを待ち伏せて、桶につめこんでさらっていってしまった。

 村人たちは「鬼に村の娘をとられてなるもんか」と、手に鎌やら鍬やらを持って鬼を追いかけて行った。
 山道で鬼においついて四方をとりかこむと、一斉にわーっとさけびながら鬼どもに襲いかかった。
 鬼は化け物が来たと勘違いして、娘の入った桶を残して逃げてしまった。
 村人たちは娘を助け出すと、桶に娘の重さだけ石をつめて、娘の着物をかぶせて蓋をしておいた。

 鬼がもどってきて桶をたしかめると、娘の着物が見えるので、
「なんだ、化け物どもは娘には気づかなかったらしいぞ」
といって、鬼の隠れ家にはこんで行った。
 けれど、桶を開けてみると、中には着物と石ころしか入っていない。
 鬼の大将は怒って、
「こんなひどいことをする人間など信じられるか」
と、悪さをするようになったということだ。
 

 
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