鰐鮫に飲まれた医者の話
 
 
 ある医者が船に乗っていると、急に船が動かなくなってしまった。船頭がいうには、どうやらこの船に乗っている誰かが鰐鮫(わにざめ)に見込まれたらしい。みんなで持ち物を海に投げ込んだら、見込まれた者の持ち物だけ海に沈むという。

 そこでひとりずつ手ぬぐいを海に投げ込んでみると、ほかの者の手ぬぐいは流れていったのに医者の手ぬぐいだけボチャンと海に沈んでしまった。

 仕方なく覚悟をきめて医者が海にとびこむと、大きな鰐鮫が現れて、がっぽり口をあけて医者を飲み込んでしまった。

 医者は丸のみにされたので鮫の腹の中でもまだ生きていた。もっていた薬箱からとびっきり苦い薬を鰐鮫の腹にぬりたくってやった。鰐鮫はたまらず医者を吐きだした。

 こうして医者はおそろしい鰐鮫の腹から生きてもどってきたという。鰐鮫といえども医者の薬には勝てないということだ。
 

 
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