猫と猟師 |
◆猫と漁師 むかし、あるところに腕のいい猟師がおった。鉄砲をかついで山へ行けば、獲物を持たずに帰ることはなかったという。 ところが、この男の家には猫がおってのう。長く飼われた恩も忘れて男がとってきた獲物を食いあらすのだと。 男が怒って猫をひっぱたくと、猫のやつめはギロリと目をむいて、おっかない顔をして男のことをにらんでおったそうな。 ある日、男は鉄砲の弾を作っておった。小さな鍋に鉛を溶かし、型に流し込んでまあるくする。弾の数はいつも六つと決めておった。その様子を、部屋のすみで猫がじーっと見ておったと。 男が鉄砲の弾を持って山へ行くと、あっちの茂みに獣の気配がする。
ところが弾は獣には中らなかった。チャリンという音がしたから、何か固いものに中ってそれてしまったのだろう。 獣はまだ近くにいる。
そうやって六発の弾を使い切ってしまうと、男の前に獣が姿を現した。
猫は弾を作るところを見ていたので、男が六発しか持っていないことを知っておった。もう撃たれないとわかると猫はじりじりと男に近づいてきた。 その時、男はふところに一発だけ弾が残っているのを思い出した。守り弾というもので、普段は使わずにとっておく弾なのだと。 男は念仏をとなえながら守り弾を鉄砲にこめた。そうして猫が近づいてくるのを待ってぶっ放したんだと。 すると、猫はものすごい悲鳴をあげて死んでしまった。さすがの猫も守り弾のことまでは知らなかったようじゃ。 あとで茂みの中をしらべてみると茶釜の蓋が落ちていた。猫のヤツは、鉄でできた蓋で弾をよけておったんだと。
「トラよ、お前もとうとうコロケ猫になってしまったのか。もうこの家には置いておかれない」 というと、猫はその言葉をききわけて裏山へ姿を消した。 それからしばらくすると、コロケ猫が峠を行く人をとって食うようになり、村の鉄砲打ちが退治しに行くことになった。 山をさまよっているうちに日が暮れて、やっとコロケ猫を見つけたときには真っ暗だった。暗闇に猫の目が光るのを見て、鉄砲打ちは狙いを定めて打ったが、猫は弾を手でうけて笑っている。 ふと思いついて、猫の本体は別のところにいるのではないかと思い、近くの岩を狙って打つと、ギャッと声がして猫の光る目も消えた。 次の日、夜が明けてから猫の血のあとをたどっていくと、山奥で大きなトラ猫が死んでいた。
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