雁取爺(灰まき爺)
 
 
 上の爺と下の爺が川に簗(やな)かけをした。簗というのは川をふさいで魚を追い込むやり方だ。

 上の爺が簗を見に行くと自分のとこには木の根っこがひっかかっており、下の爺の簗には魚がはねていた。そこで上の爺は木の根を下の爺の簗に放り込み、下の爺の魚をぜんぶ持って帰ってしまった。

 下の爺が簗を見に来ると、自分のには木の根っこがかかっている。乾かして釜戸にくべればよく燃えるだろうからと、持って帰って庭先で干しておいた。

 いい具合に乾いたところで斧で割ろうとすると、
「爺、そっと割れ。そっと割れ」
と声がする。どうやら根っこの中から聞こえてくるようだ。

 そこで、爺が斧をそっとあてると根っこが割れて、中から白い犬の子が出てきた。爺には子がなかったのでその犬を育てることにした。

 犬はどんどん大きくなった。ある日、犬が言うには、
「爺さ、おらの背中に乗れ。鹿狩りさいこう」

 犬は爺を乗せて風のようにかけっていった。山の奥まで来ると、
「あっちの鹿もこぉい。こっちの鹿もこぉい」
と、吠えた。すると、おもしろいように鹿が集まってくるので、爺は斧でたたき殺して持って帰った。

 爺が鹿汁をこさえて食べていると、上の家の婆が火種を借りにやってきた。あんまりいい匂いがするので「おや、こっちの家じゃ何食っておるけな」というと、下の爺はお人好しなもので
「鹿汁さ食ってこさえたところじゃ。あがって食べていきなされ」
と、上の婆にすすめた。

 上の婆は鹿汁をたらふく食べて、最後の椀を「うちの爺にも食べさせようか」と持って帰ろうとしたが、下の爺は「それなら別に用意するから、その椀は婆様が食いなされ」といって、重箱に鹿汁をつめて渡した。

 婆は重箱をもって厩へ行き、肉のところをすっかり食べてしまうと、残った汁に馬の糞をまぜて持ってかえった。上の爺は糞汁をうまいうまいと言って食べた。

 鹿の味が忘れられないので、こんどは自分らも鹿狩りをしようということになって、下の爺のところへ犬を貸してくれるように頼みに行った。下の爺はお人好しなもので犬を貸してしまった。

 上の爺は犬が背中に乗れと言う前にまたがって、さあ急げと山へ向かった。犬は嫌がりながらも山の奥までやってくると「あっちの蜂もこぉい。こっちの蜂もこぉい」と吠えた。すると蜂がたくさん飛んできて爺のキンタマを刺した。上の爺は怒って犬をぶち殺して埋めてしまった。埋めたところには米の木の枝を刺しておいた。

 下の爺が犬を返してくれと言いに行くと、あんなものは殺して埋めたという。あわてて山へ行くと上の爺が言うとおり米の木の枝が立っているから、犬の形見だと思って持って帰り庭に刺しておいた。

 米の木は根っこがついて、ぐんぐん大きくなった。次の年には米だの黄金だのがざくざくなった。下の爺は婆とふたりして木の下でござをしいて「銭も金もガツグブリ」と言って枝をゆすると、銭やら金やらが落ちてきた。

 上の爺も銭や金がほしくて、下の爺から米の木を借りて庭に植えた。家中のござをひっぱり出して木の下に敷いて、銭や金と言うところを「ベコの糞もベタクタ、馬の糞もベタクタ」と言って枝をゆすると汚いものがベタクタ落ちてきた。あわててござを川で洗ったが、いつまでも乾かないので寝るところがなくなった。爺は怒って木を切って焼いてしまった。

 下の爺が木を返してくれと言いに行くと、そんなものは焼いてしまったと言う。仕方なく灰を持って帰ると雁が飛んできたので、屋根にのぼって灰をまきながら「雁の目さ入れ」と叫んだ。すると雁がぼろぼろ落ちてきたので、その夜は雁汁をこさえて食べた。

 そこへ上の婆がやってきたので雁汁をふるまってやった。この婆は前と同じく重箱に雁汁をつめてもらい、厩で肉だけ食べてしまうと馬の糞をまぜて爺に食わせた。

 上の爺は自分でも雁を捕りたくなって下の爺から灰をわけてもらったが「雁の目さ入れ」というのをまちがえて「爺様の目さ入れ」と言ってしまったので、上の爺は目が痛くなって屋根から転がり落ちた。

 下では婆やら嫁やらが待っていて、上から何か落ちてきたので爺とは気づかずに殴り殺してしまった。大きな鍋で汁を作って、爺にも食わしてやろうと屋根の上に「雁汁をこさえたよ」と呼ばわったら、鍋の中から「ほうい、ほうい」と爺の声がした。
 

◆こぼれ話◆

 「花咲爺」の類話。遠野地方の昔話だ。
 隣の爺さんではなく、上と下(おそらくは川上と川下)の爺になっているのはアイヌの昔話と同じである。常に下の者が善玉で上の者が悪玉である。

 花咲爺の場合おじいさんが最初から犬をかっているが雁取爺では焚きつけにしようと拾ってきた木の根から犬が生まれる。その犬の墓から木が生えてきて、その木が燃やされて灰になりまた恵みをもたらす。

 文中に出てくる「米の木」というのは参考にした本にもそう書いてあったのだが、米の木なら米が成ってもよさそうなのに成るのは金や銭である。ごく当たり前の単語として出てきて説明もなかったので何かの木の地方名なのかもしれない。
 

 
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