子守歌内通 |
六部さんというのは、旅をしながらお寺でお経をあげて、道行く人たちから小銭をもらって暮らしている人のことだ。 昔、ある六部さんが民家に宿をもとめたところ、どういうわけかこの家の者は貧しい身なりの六部さんを喜んで泊めてくれた。 汚れた足を洗うお湯もくれたし、お茶も御馳走になった。布団もしいてくれて「六部さん、お疲れでしょう。休んでおくれやい」と、たいそう親切にしてくれる。 素性もわからない旅の者を快く泊めてくれる家はあまりない。それなのに、この家の人たちはなんといい人たちなんだろうと感心しながら、その夜は旅の疲れもあったから早めに寝てしまった。 ところで、その家には子守りに雇われている娘がいた。
「リンカージンとカージンが
おかしな歌だ。まるで意味がわからない。
「山に山を重ねよというのは"出"という文字のことかのう。おお、そうじゃ、それなら草の冠をとれば"早"という字になる。
そこまで思いつくと、六部さんはあわてて荷物をまとめてその家から逃げだした。子守りさんの歌は「隣の家の者と、この家の者が、言っているのを聞いたなら、旅の僧を殺すと言っている。早く出て行け」という意味だった。 おそらく、六部さんがあちこちでもらって歩いた小銭を横取りしようと、わざと親切にしてくれたのだ。そのたくらみを聞いた子守り娘が、誰にもわからないように歌にして教えてくれたというわけだ。 |
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