寝太郎話
 
 
◆寝太郎(一)
 横着者で寝てばかりいる若者は、ある日ハトと提灯を用意して、夜中に庄屋の家の木に登り「わしは八幡太郎である。この村の寝太郎を婿にせねばこの家は滅びるぞ」と言って、ハトの足に提灯を付けて飛ばした。庄屋は神様が来たと思いこんで寝太郎を婿にした。

◆寝太郎(二)山口県厚狭地方
 ある若者は仕事もしないで三年と三月もごろごろ寝て暮らしていた。ある年のこと、村が大飢饉に襲われたとき、寝太郎は突然おきあがって村人たちにわらじを作るように言った。寝太郎は何千足ものわらじをもって佐渡へ行き、金山で働く人が履き潰したわらじと交換した。村へ帰って村人総出でわらじを洗うと水の中に砂金が沈んでいた。

◆寝太郎(三)熊本県熊本市
 寝太郎が寝て暮らしている間に田んぼの稲が風に吹き倒されてしまった。風の神様に祈らなかったせいだと思い風穴でお祈りしていると、風が寝太郎を風穴に吸い込んでしまった。気がつくと地底国にいて帰る道がわからない。地底人に鍬(くわ)をもらって地上に戻る。

 見知らぬ家の床下に出て、家の者はモグラのような人間が現れたと大騒ぎ。家の人たちは何を思ったか大きな番傘を持ってきて「壊れたので修理してほしい」と言う。それがあまりに大きな番傘なので、寝太郎は人に手伝ってもらってなんとか修理を終わらせる。そこへまた風がふいてきて、寝太郎は番傘とともに空へ舞い上がった。

 気がつくと雲の上だった。そこには雷さんがいて「今年は日照り続きでこれから雨をたんと降らせなければならない。光り物の手が足りないところだから手伝って行け」という。寝太郎が水で濡らした笹を打ち振ると、地上では稲光がおこる。おもしろがってピカピカやっているうちに雲の切れ間から真っ逆さま。

 気がつくと自宅の布団の中。女房どのがおかしな顔をして「あんた、どうして寝たまま暴れているんだい」「おら下の国へ行ったり、上の国へ行ったり、働き通しだったんだぞ」と寝太郎。
 
 

 
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