ふしぎな太鼓
昔、あるところに源五郎という男がおってな。
ある日、川べりをぶらりと歩いていると、小さな太鼓を拾ったんだと。
それがまあ、ふしぎな太鼓で、鼻高くなれって言いながらたたくと鼻がどんどんのびる。鼻低くなれって言いながらたたくともとにもどる。
そこへ長者さんの娘がお供をつれて通りがかったので、源五郎はおもしろがって
「娘の鼻、高くなれ」
って太鼓をポンポコたたいたんだと。
急に鼻がのびたもんだから、娘はびっくりして家に帰っていった。
こっそり後をつけてゆくと、長者さんの家では大さわぎになっている。嫁入り前の娘さんの鼻が、まるで天狗さまの鼻みたいになったんだから、さわぎにならないはずがない。
長者さんはなんとか娘の鼻を治してやろうと、遠くの町から医者を呼んできたり、えらいお坊さんに拝んでもらったりと手をつくしたがどうにもならん。そこで長者さんは
「娘の鼻を治してくれた者には望みの金を出す」
と紙に書いて家の前にはりだしたんだとさ。
しめたと思った源五郎。
「鼻の病気なら、あっしがなんとか出来るかもしれません」
と、名乗り出た。それで、娘の部屋にあがりこむと、
「これは難しい病気だから、腰をすえてやらんといけませんな」
といって、家の者をみんな部屋から出してしまった。そうして
「娘の鼻、低くなれ」
といいながら太鼓をポンとたたくと娘の鼻がぴょこんと低くなった。
それから源五郎はもったいつけて、毎日一回ずつ太鼓をたたいて、七日もかけて鼻を治してやったんだと。すべては源五郎のしくんだことだけど、そうとは知らない長者さんは源五郎に大金をはらってやった。
源五郎の天のぼり
大金持ちになった源五郎。
すっかり上機嫌で原っぱで空を見ていたんだと。
そのうち気分がよくなって
「太鼓をたたきつづけたら、この鼻はどこまでのびるんだろか」
と思って、太鼓をポンポコたたきつづけた。
源五郎の鼻はどこまでものびていって、雲をつきぬけて、とうとう天の川までとどいてしまった。
その頃、空では天の川に橋をかけようとしていたが、柱にする木がもう一本足りないとこまっておった。
そこへ源五郎の鼻がのびてきたもんだから、ちょうどいい、柱にしてやろうと橋に打ちつけてしまったんだと。
源五郎は、鼻先が痛くなってきたので、
「鼻低くなれ」
といいながら、あわてて太鼓をポンポコたたいた。
ところが、鼻は天の川の橋に打ちつけられているので、鼻がみじかくなると源五郎の体が宙にういて、どんどん空へとのぼっていった。
源五郎鮒(げんごろうぶな)
天の川の橋にうちつけられていた鼻から釘をぬいて、やっとの思いで自由になった源五郎。
そこへ虎のふんどしをしめた雷さんがやってきて源五郎をみつけた。
「ほう、こんなところに人間とはめずらしいな」
「へい、かくかくしかじかで、大変なありさまで」
「そうか、ならわしのところで働け。雨の季節になるといそがしくてかなわんのじゃ」
こうして雷さんの弟子になった源五郎。
雷さんが背中の太鼓をうちならし、ドンドコドンドコ雷鳴をとどろかせると、源五郎は雲の上をはしりまわって柄杓(ひしゃく)で水をまく。
ちょっとまいただけでも下界では大雨になるから、おもしろくておかしくて、つい夢中になってかけずりまわっているうちに、足をすべらせて雲から落ちてしまった。
稲妻になって落ちてゆく源五郎。
落ちたところは琵琶湖のどまんなか。
海みたいに広い湖のまんなかに落ちては命はない。
わらをもつかむ思いでもがいているうちに、源五郎はフナという魚になってしまったんだと。
今でも琵琶湖にいる大きなフナのことをゲンゴロウブナっていうんだとさ。
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