座頭の木
 
 
 むかし、大きな川のほとりに、渡し守の爺さんが住んでおった。
 
大水が出た次の日に、爺さんが流木をひろってあるいていると、座頭さんが死んで浮いているのをみつけたんだと。

 目が見えないから川に落ちて死んだんだろうと、弔いをだして埋めてやったら、座頭さんの墓から木がはえてきて、見る見るうちに大木になったんだと。

 やがてその木に二尺も三尺もある大きな花が咲いて、花の中では座頭さんのかっこうをした小さな人が、笛や太鼓、三味線をならして、にぎやかなお囃子をするんだと。

 評判をききつけて、遠くの町からも見物人が集まってきたので、爺さんは弁当や饅頭を売ったりして稼いだんだと。

 そのうち花がぽろりと落ちて、座頭さんたちは川面にうかびながら、にぎやかにお囃子をしながら流れてゆく。見物人が川に出たがるので、爺さんは船を出して、たんと稼いで豊かになったんだと。

 そうして、花がすっかり落ちてしまうと、コマだの、凧だの、赤いべべだの、今度は子供たちがほしがるようなものがザラザラ成るようになったんだと。
 子供たちが木の下で
「おら、赤いべべがほしい」
というと、風がふいてきて、赤いべべが落ちてくる。
「凧がほしい」
といえば、凧が落ちてくる。

 そうやって村中のこどもたちが欲しいものを手に入れたんだとさ。
 めでたしめでたし。
 

◆こぼれ話◆

 座頭さんは、殺し屋でもなければ、下駄でタップダンスを踊る人でもなくて、目の見えない按摩(あんま)さんである。または琵琶などの楽器を持って弾き語りを商売にしていることもある。たいてい頭をそり上げてお坊さんのような姿をしていることが多い。

 昔話に出てくる座頭さんは、目は見えないけれど知恵があり、いろんな人から相談をもちかけられたりする。座頭さんの助言で大金持ちになる若者の話などもある。
 

 
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