天女の羽衣(天人女房) |
◆天女の羽衣(一) 男は水浴びをしている天女の羽衣をかくした。天女は男の妻になり子供をつくるが羽衣をみつけて天に帰る。男は瓜の蔓をつたって天にのぼり妻と再会するが舅に胡瓜を切れといわれ、その通りにすると胡瓜の水が天の川になり、離ればなれになった。 ・瓜の蔓をつたって天に昇る
男がどうしても別れたくないというので「千足のわらじを作ってください。そうしたらそのわらじが天まで運んでくれますから」というので、必死になってわらじをつくったが、あと一足たりなかった。 一足くらいいいだろうと、男はわらじを伝って昇っていくと、天のほうでは女房が「あんた、こっちよ」と手を振って迎えてくれたが、わらじが一足たりなかったので、あと少しというところで手がとどかず、男は天へ行けなかった。 ・千足のわらじを使って天に昇る
この話は「おんぶおばけ」というアニメにも出てくるが、その話では村人総出でわらじを作り、中には浅草寺にあるような大わらじをもちこんで「これで百足分くらいになるんじゃないか」と言っている人もいた。結局、九百九十九足のわらじしかできなかったけれど、一足くらい問題ないだろうということになって、天女との約束の日をむかえる。するとわらじが紐のようにつながって天までの道をつくる。それを天女の子と一緒に昇っていくと天の近くまでたどり着き、あと少しというところで届かなかったという話になっていた。
けれど、どうしても天に帰りたくなって、男に羽衣を返してほしいというが、男が
天へ行く修行がどういうものかはわからないけれど、とにかく厳しい修行で、それでもなんとか九十九日まで耐えた。 とうとう百日目になって、もういいだろうと天へのぼっていったら、天でも女房が手をふって待っていてくれたのに、男は百日目のあと一時間というところで修行をやめていたから、天にてがとどかずに地上へ落ちてしまった。 ・百日の修行をする
ある日、惣太郎はひょんなことで羽衣の隠し場所を話してしまう。天女は羽衣を身につけ、子供をだきかかえて昇天してしまった。惣太郎はふぬけたようになり、どうやったら天に昇れるのかと、そればかり考えていた。その様子を哀れんだある人が「馬や牛の靴を集めて燃やし、その灰の中に豆を一粒埋めなさい」と教えた。その通りにすると、豆の蔓がぐんぐんのびて天に届いた。 惣太郎が豆の木をつたって天界へ行くと、そこには妻と子供がいて、これからは一緒に暮らしましょうと喜んでくれた。妻の父親にたのまれて天界の瓜畑の見張りをしていたが、ある時のどが乾いて、瓜をひとつだけとって食べようとすると、中から大量の水があふれ出して天の川になった。惣太郎は川の向こう岸まで流されて、妻とは一年に一度しか会えなくなった。夏に空を見上げれば、二人は今でも天の川の両岸にいる。惣太郎は牽牛星、天女は織女星である。
・天に昇るが瓜から出た水にはばまれて生き別れに→七夕様 イザベラ・バードの『日本奥地紀行』に、馬の草鞋がたびたび脱げるのにうんざりする話がある。一山越えるのに大量の草鞋がいるので沿道の村ではみな馬の草鞋を作って売ったという。子供らは馬子が捨てていく馬草鞋を拾い集めて堆肥にするとも。惣太郎が牛馬の靴を集める話とあわせて読むと面白い。
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◆こぼれ話◆
(一)は七夕様の起源に繋がる話。男は天までたどりつき、婿殿として迎えられるが、舅(天帝)に瓜を切ってくれといわれて、そのとおりにすると瓜から水が出て天の川ができた。男は川のこっち、女房はあっちに生き別れになってしまう。中国にも同じ話がある。舅とのやりとりにバリエーションがあって、舅が必ず勝つような無理難題をふっかけられるのだが、女房が入れ知恵するので婿殿が勝ってしまう。最後に瓜を切って天の川ができたとき、さすがの舅も気の毒に思ったのか「月に一度……」といいかけたのを、男が「年に一度ですか」と聞き間違えて、それから毎年の七月七日にしか会えなくなる。
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