尾張富士と本宮山 |
尾張の国に、高い山がふたつある。 ひとつは尾張富士、もうひとつは本宮山という。 ふたつの山はほとんど同じ高さだったが、たがいに自分のほうが高いと言ってゆずらなかった。 ある日、ものすごい雷がやってきて、尾張富士のてっぺんにガラガラピシャーンと落っこちた。 「そらごらんなさい。わたくしのほうが高いから雷が落ちたのよ!」 尾張富士の女神は勝ちほこってそう言った。 けれど、本宮山の神様は、落雷で尾張富士のてっぺんから大きな岩が落ちていったのをちゃんと見ていた。岩の分だけ尾張富士のほうが低いはずだと思って、 「そんなに言うならくらべてみるさ。アンタのあたまの上からわしの頭の上に雨樋をとおして、どっちへ水が流れるか調べればいい」 そこで神様たちはでーっかい雨樋をつくって、本宮山と尾張富士のてっぺんにかけた。 やがて雨がふってくると、雨水は低い方へと流れ、尾張富士のてっぺんのじゃぼじゃぼと流れ出した。 「まあ悔しい。わたくしのほうが低いだなんて」 尾張富士の女神は地団駄をふんで悔しがった。この時から尾張富士を小富士、本宮山を大富士と呼ぶようになった。 ある日、ふもとの村の庄屋さんの夢枕に女神がたって、 「ああ悔しい。もとはといえばわたくしのほうが高かったのです。それを本宮山などにバカにされて、このような屈辱にはたえられません。わたくしがもとのように一番になれるよう、どうか村の衆に頼んで尾張富士に石を運び上げてくださいな。手伝ってくれた者にはかならず願いをかなえましょう」 と、涙ながらにうったえた。 庄屋さんはこのことを村人に話し、それからというものは、尾張富士に登る時は小石を持ってあがるようになった。 今でも尾張富士では八月の初めに石上げ祭というのやる。人々が大きな石をかついでエッサーエッサーと山をのぼる不思議な祭りである。
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◆こぼれ話◆
尾張富士の標高は 275m、本宮山の標高は293m とのこと。本宮山のほうがほんの少し大きい。近いところに並んでそびえているので、つねにどちらが高いか話題にされていたのだと思う。 尾張富士の女神はコノハナサクヤヒメで、一説にによればこの女神は左利きだというがなぜだろう?? |
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