縁起かつぎ
 
 
枝や節は困る

 むかし、何かにつけて縁起をかつぐ旦那さんがおった。
 暦を見て吉日をえらんで、畑に麻をまこうとしていたら座頭さんが通りがかり
「私は"えだお"から来たのだが、"ふしお"はどちらかね」
と聞いた。

 麻は糸にするものだから、節や枝があっちゃこまる。

 縁起かつぎの旦那さんは
「枝だの節だの、不吉なことを言われちゃ育つものも育たない」
と言って仕事をやめてしまった。
 

サヤばっかりなのもいやだ

 何かにつけて縁起をかつぐ旦那さんが畑に大豆をまこうとしていた。

 そこへ座頭さんが長い刀を持って通りがかった。

 畑で仕事をしていた使用人が、
「おや、座頭さん。長いものをお持ちですね」
と言うと
「長いのはサヤばかり」
という返事。

 旦那はサヤばかりの大豆になったら大変だと、仕事をやめてしまった。
 

根も葉もない?!

 縁起かつぎの旦那さん。今度は大根をまこうとした。
 いつもいつも、座頭さんが通りがかって不吉なことを言うので、
「いいか、座頭が来ても口をきくんじゃないぞ」
と使用人に言いふくめた。

 そこへ座頭さんがやってきて、
「みなさん、ご精が出ますのう」
と挨拶したが誰も返事をしなかった。

 縁起かつぎの旦那がヘソをまげたんだなと思った座頭さんは、
「私が根も葉もないことを言ったせいでご迷惑かけましたかな」
と言った。

 大根に根も葉もなかったら、どこを食べればいいんだろう。
 旦那さんはウンザリして仕事をやめてしまった。
 

◆こぼれ話◆

 座頭さんは、殺し屋でもなければ、下駄でタップダンスを踊る人でもなくて、按摩や弾き語りを商売にしている盲人で、お坊さんのかっこうをしている…というのは前にも書いたが、仕事柄あちこち出歩くので護身用に仕込み杖を持っていたらしい。

 江戸時代になると、金貸しをする座頭さんもいたらしい。
 三ヶ月で返さなくてはならない決まりで利子も高く、返せないと厳しい取り立てもあったそうだ。

 
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