三吉さま
 
 
 あるところに子供のない爺と婆がおった。
 こんな歳になってしまったが、なんとかひとりくらい子供をさずからんものかと思って、明神さまに祈願していると、どこからか赤ん坊の泣き声がした。
 みると、道ばたに元気のいい赤ん坊が捨てられているんだと。
 爺と婆は明神さまからのさずかりもんだと思って、赤ん坊に三吉と名づけて大事にそだてた。

 三吉は、えらく頭のいい子供で、ろくに教えもしないのに、読み書きをおぼえたし、算術だってできるようになった。
 おまけにとんでもない力持ちで、たったひとりで田んぼの稲を刈り取って、家ほどもある大きな束にすると、えいやっと担いで持って帰ったりもした。

 おまけに気がやさしくて、村の子供たちと虫をとったり、かけっこをしたり、毎日あそんでやったから、みんなが三吉三吉といってしたっておったんだと。

 そのうち、三吉が年ごろになると、村のおなごたちは三吉の嫁になるんだといって集まってくるが、
「おら誰とも結婚なんかしね」
といって、相手にしないんだと。

 やがて三吉が十八になると、
「爺さま、婆さま、今日まで育ててくれて有難うさん。おらは神さまとの約束で、十八になったら神さまにならねばなんね。だから、村の衆とも子供たちとも今日でおわかれだ」
って言う。
 爺も婆もびっくりするやら悲しむやらだったけど、三吉は小さいころから普通の子とはちがっていたし、やはり神さまの子だったかと、別れをおしみながら見送ったんだと。

 そうして、三吉は村から去ってしまったが、村に大水がでて橋がおちてしまったとき、どこからかふらっと帰ってきて、
「おらが橋さかけてやるだ」
と、百人力であっというまに橋をなおしてくれたんだと。

 それからも、たまに姿をあらわすと、村の子供たちと遊んでやったりしておった。
 神さまになった三吉は、村を出て行ってから何年もたっていないのに白いひげの爺さんになっていたということじゃ。
 村の衆は、三吉(さんきち)さまとか、三吉(みよし)さまとか呼んで、いつまでも三吉を村に祀ったんだとさ。
 

 
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