八月十五日のお月さんを見ていると、山のほうから声がする。
「山姥が子を持ったぞ。餅さ食いてえって言ってるぞ」
その声はだんだん近づいてきた。
大男が風のように駆けめぐりながら、村中の家の屋根を踏みならして
「山姥が子を持ったぞ。餅さ欲しいぞ」
と、呼ばわってまわった。
大男は来たときと同じように、風のような速さで山へ帰ってしまった。
村人たちが集まって、
「山姥に子供が生まれたんだってな」
「餅が欲しいと言っておったなあ」
「ほうっておいたら悪さでもするんでねえか」
「だども、誰が餅をもってゆく?」
と、顔をつきあわせて相談した。
誰も行きたがらなかったが、村いちばん肝のすわった婆さんが、
「ならおらが行くべ」
といって、餅をかついで山に登っていった。
ずんずん登っていくと、山の中にあばら屋があって、婆さんが声をかけると、中から山姥が顔を出した。
「おう、おう、よう来てくれましたなあ」
「このたびはお産があったそうで、お祝いに餅さ持ってきましただ」
「子供さ産んだら急に餅さ食いたくなってのう。村のもんには世話かけてしまっただ」
「なに、大したことはねえだ」
それから山姥は、大男を呼んで、
「熊とってこう。婆に熊汁を食わしてやるだ」
と言った。大男は風のように走っていって、たちまち熊をつかまえてくると、見る間にごんごんと切り刻んで熊汁にしてしまった。
婆さんは熊汁を腹いっぱい食べて、
「わしゃ、そろそろお暇しようかのう」
と、帰ろうとしたが、山姥が待ってくれという。
「お産のあとで人手がほしいだども、うちにいるのは大男だけだで、婆さま、二十一日の間ここで家の仕事を手伝ってくれんかのう」
婆さまは、自分の家も気になるので帰ろうと思ったが、熊を犬っころみたいにつかまえてくる大男に見張られているし、お産のあとが大変なのは、女ならみんな同じだとおもって、手伝ってやることにした。
そうして、洗濯やら掃除やらをして、たまに大男と遊んだりして暮らしていると、あっというまに二十一日たってしまった。
「家の者も心配してるだで、そろそろ帰りたいんじゃがのう」
婆さまが言うと、
「今日までほんに有難うさんでござんした。これはお礼の反物だで、持って帰ってけろ。この反物は、使った分だけのびるから、いくら使っても使い切ることはない宝の反物だ」
といって、美しい布をくれた。
婆さまが、やっと村にかえってみると、村のしゅうが家にあつまって、何かしている。
「おや、どうかしましたかいのう」
婆さまが声をかけると、村のしゅはびっくりして、
「今、あんたの葬式をあげていたところさね」
と、言った。
いつまでたっても婆さまがかえってこないので、山姥に食われたものだとあきらめて、葬式をあげようとしたんだと。
婆さまは、
「おらのことなら心配いらね。山姥から土産をもらっただで、みんなにわけてやろうな」
といって、村のもんに反物を少しずつわけてやった。
山姥がくれたのは使った分だけのびる布だから、村中にわけても元の反物のままだったということだ。
|