竜宮の酒 |
むかし、ある男が友達とつれだって山を歩いていると、揺動ヶ淵というところで鉈を落としてしまった。 あわてて淵に飛び込んだが、どこまでもぐっても淵の底にたどりつかなかった。 こりゃぁしまった。
そう思った瞬間、目の前がぱっと開けて見知らぬ御殿の前にたどり着いた。
三時間ほど楽しくすごし、男は鉈を返してもらうと、もといた淵のほとりにもどってきた。 一緒にいたはずの友達の姿がなかったので、先に帰ったのだと思い村へ戻ってみると、自分の家で誰か死んだらしく葬式をしている。
ほんの三時間のつもりだったが、地上では三日もたっており、てっきり死んだと思った村人たちが男の葬式をあげていたのだった。 それから男は元気にくらし、八十歳まで長生きをした。
「ああ、もう一度でいい。竜宮の酒が飲みてえなあ」 そこで、孫たちが泉龍寺の和尚さんに相談すると、和尚はヒョウタンを淵にうかべ、経をとなえはじめた。 するとヒョウタンはずぶずぶと水に沈み、しばらくするとまた浮かび上がってきた。中にはお酒が入っており、たぷたぷと音を立てていた。 こうして、男は竜宮の酒を飲み、もう思い残すことはないと、安らかに死んで行ったと言うことだ。 |
◆こぼれ話◆
群馬県吾妻郡尻高村(しったかむら)の伝説。現在は村の名前が変わっており、高山村となっているが泉龍寺や揺動ヶ淵は実在する。群馬県に海はないが、このように深い淵の底が竜宮とつながっているという伝説が各地にあり、利根郡ではお客があるときに淵にお願いすると乙姫様がお椀やお膳を貸してくださるという「お椀淵」伝説が残っている。同じような伝説が長野県にもある。長野も海のない県である。 |
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