きりしたんばてれん |
その人は顔が白く、髪の毛は真っ赤で、へんてこなえりのついたマントをつけています。 宿の番頭さんは「ははん、これはバテレンさんだな」と思いました。バテレンというのは、キリスト教をひろめにくる神父のことです。 バテレンは、大きなかばんを出して、
「へえ、わかりました。大事におあずかりしますから安心なすってください」
ところが、夜になってもバテレンは帰ってきません。
何日そうして待ったことでしょう。
宿のおかみさんが、こまった顔をしていいました。
そこで番頭さんは、おかみさんといっしょにバテレンのかばんをあけてみました。
「おや、これだけかい」
その日の夜のことです。あのバテレンがかえってきました。
バテレンにそういわれて、番頭さんはドキッとしました。悪いことをしたとは思いません。夕方までに帰るといったっきり何日ももどらなかったので、心配になってしたことなのですから。 けれど、きゅうにたずねられて、番頭さんはつい「見ていませんとも」と答えてしまいました。 「ほんとうですか。うそをいっても、わたしにはぜんぶわかりますよ」
すると、ふるぼけた人形の口がうごき、なにかを話しはじめました。番頭さんにはその声が「みたー、みたー」といっているようにきこえました。 「ひー、なんまんだぶなんまんだぶ…おゆるしくだせえ、たしかにかばんをあけて見ました」
「やくそくをやぶるのは、よくありません。だれもみていないとおもっても、神さまはかならずみています」
ひとりでにうごく人形を見せられた人たちは、バテレンというのはおそろしい妖術をつかうのだとびっくりして、西洋の神さまを信じるようになったということです。
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