絵のうまい小僧
 
 
 むかし、あるお寺に、絵のうまい小僧さんがいました。いつもお経のべんきょうをさぼって絵をかいてばかりいたので、和尚さんは、もう絵をかいてはいけないといいました。それでも小僧さんは、絵がだいすきだったので、和尚さんにかくれて絵をかいていました。

 ある日、小僧さんが馬の絵をかきました。あんまりよくかけたので、だいじにしまっておきました。

 そのころ村ではみのったばかりの稲を、どこかの馬が食いあらすのでこまっていました。この馬は、いったいどこからくるのだろうと、足あとをおっていくと、お寺につづいていた。

 けれど、お寺には馬はいません。
 和尚さんにそのことを話すと、和尚さんはきゅうになにかを思いついて、小僧さんの部屋をみにいきました。

 部屋のなかをしらべると、たんすの中から馬の絵がでてきました。絵のなかの馬は足がつちでよごれています。

「みなの衆、どうやらこやつのしわざのようじゃ」

 和尚さんに絵をみせられて、村の人たちはびっくりしました。絵にかいた馬なのに、今にもとびだして走り出しそうなのです。
「まちがいない。おらたちの田んぼをあらしていたのはこの馬じゃ」

 和尚さんは、村の人たちにあやまって、馬の絵をお寺の柱にしばりつけてしまいました。それからというもの、馬が絵をぬけだして田んぼをあらすことはなくなったということです。

 またある日のこと、絵のうまい小僧さんは、和尚さんにかくれて不動明王の絵をかいていました。

 そこへ和尚さんがやってきて
「小僧さんや、このにもつを町の彦右衛門さんのところにとどけておくれ」
と、いいました。

 小僧さんは、お不動さんの絵を、布団のあいだにかくしてお使いにでかけました。かえってみると、布団部屋からけむりがでています。

「和尚さん、たいへん、布団部屋が火事ですよ」
 小僧さんにいわれて、布団部屋にかけつけてみると、絵にかいた不動明王が、まっかな炎をあげながら、こわい顔をしてたっていました。お不動さんの炎は布団にもえうつってぶすぶすとけむりをあげています。

 和尚さんはお経をとなえ、小僧さんが水をくんできて火をけしました。おかげで、お不動さんは絵のなかにもどり、寺も丸やけにならずにすみました。

 これには和尚さんもすっかりあきれて、
「そんなに絵がすきなら、これからはすきなだけ絵のべんきょうをすればいい。お前ほど絵がじょうずなら、絵のちからで仏さまの道をとくこともできるかもしれないな」
と、いいました。
 

 
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