吉四六さん
 
 
馬とも五十銭

 吉四六さんは馬に薪(たきぎ)をつんで町まで売りに行きました。薪はいらんかねー、と呼ばわりながらあるいていると、餅屋の主人が店から出てきていいました。
「馬ぐるみなんぼや」

 吉四六さんは、てっきり薪の値段をきかれたのだと思って、
「へえ、五十銭で」
と、こたえました。

 餅屋の主人は吉四六さんに五十銭にぎらせると、薪をうまごとひっぱっていこうとしました。
 吉四六さんはびっくりして、
「こら、何するだ。馬まで売ったおぼえはねえ」
と、いいましたが、餅屋はすました顔でいいました。
「馬ぐるみなんぼやときいたんだから、文句をいわれるすじあいはない」

 餅屋の主人に馬をとられた吉四六さんは、なんとかしかえししてやろうと思いました。
 そこで、餅屋の店先にふらりとたちよって
「この餅はいえぐるみいくらだい」
と、たずねました。

 餅屋が、いつものくせで
「へえ、二十銭で」
と、こたえると
「そんなら、ここに二十銭あるから今すぐこの家から出ていってくれ。おら、家ぐるみでいくらかときいたんだから、文句あるめえ」

 これには餅屋もまいってしまいました。吉四六さんに馬をかえしてゆるしてもらいました。
 

瓶買い

 吉四六さんは町に瓶を買いにいきました。
 荒物屋の店先には、六十銭の大きな瓶と、三十銭の小さな瓶があります。吉四六さんは三十銭はらって小さな瓶を買いました。

 家に帰ると、吉四六さんの奥さんが、
「こんな小さな瓶じゃやくにたたないよ。もっと大きいのととりかえてきとくれよ」
と、いいました。

 吉四六さんは小さい瓶をもって、さっきの荒物屋に行くと、大きな瓶ととりかえてほしいといいました。
「大きい瓶は六十銭ですから、あと三十銭いただきます」
 荒物屋がそういうと、吉四六さんはすました顔でいいました。
「あんたには、さっき三十銭やっただろう。そして、この小さい瓶は三十銭の値打ちだから、あわせて六十銭。こっちの大きな瓶と同じですな」

 こうして、吉四六さんは大きな瓶をもってゆうゆうと帰っていきました。
 

 
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