田舎者と梯子
 
 
 権兵衛さんはうまれてはじめて京の都にやってきました。
 宿にはいるとに「二階へどうぞ」とあんないされたのはいいけれど、田舎ではどの家も平屋だったので、階段をつかったことがありません。

 階段といっても、むかしの家のものですから、梯子(はしご)を大きくしたようなものでした。上がるときは女中さんのまねをして上がりましたが、いざ下りるだんになると、権兵衛さんはどうしていいかわかりません。

 そこへ宿でかっている猫がやってきて、かるい足どりで梯子を下りていきました。
 それを見て権兵衛さんは、猫のように四つんばいになって、頭を下にして梯子をおりはじめました。

 宿の人たちはおどろいて目をまるくして、それから大笑いしたということです。

 さっきは猫のまねをして笑われた権兵衛さん。こんどはちゃんと下りてやるぞとおもいました。そこへ宿の主人がやってきて、階段を下りていったので
「あん人のまねをすればまちがいあるめえ」
と、よく見ていました。

 ところが、宿の主人はとちゅうで足をすべらせて、ごろごろどすーんと落ちてしまいました。

 そこで権兵衛さん、主人のまねをして階段からころげ落ちたので、やっぱり宿の人たちに笑われてしまいました。
 

 
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