朝子と夕子
 

 その山の東と西には村がありました。ふたつの村はいつの頃からか仲がわるく、もう何年も行き来がないので、山をこえる道には草がはえ、どこが道かもわからないほどでした。

 ところで、東の村には朝子というとんちのきく女の子がいました。その頭のよさといったら、おとなでも言いまかされるほどでした。それで村の人たちは話し合って「西の村と、とんちくらべをして、こてんぱんにやっつけてしまおう」と決めました。

 次の日、西の村に矢文がとどきました。東村のものが手紙をつけた矢を山のてっぺんから弓で放ったのです。

 手紙には、山の上でとんちくらべをすること、東村からは朝子という女の子をひとり出し、西の村からは何人出てきてもかまわないこと、負けたら勝った村の家来になることが書かれていました。

 それを見た西の村の人たちは大笑い。
「おらたちの村は夕子というとんち娘がいるってことを、やつらは知らないにちがいないや」

 そうして、とんちくらべの日がやってきました。
 東村からは朝子が、西村からは夕子が山をのぼってきました。
 朝子と夕子は山のてっぺんで顔をみあわせてびっくり。ふたりは姉妹のようによく似ています。歳も、うまれた日も同じでした。

朝子と夕子
 ふたりは山の上で話をしているうちに、すっかり仲よしになって、東村と西村を仲なおりさせる方法はないかとかんがえました。
 そこで、とんちくらべは引き分けだったことにして、もう一度べつの勝負をすることにしました。山の東と西から同時に道をつくりはじめ、てっぺんまで先に道をひけた村が勝ちというのです。

 ふたつの村は、さっそく道をつくりはじめました。どちらも村の名誉がかかっているので寝るまもおしんで道をつくりました。

 朝子と夕子は、こっそり村をぬけだしては工事のすすみぐあいを確かめました。村を仲なおりさせるには、どちらが先に完成させてもいけないのです。ちょうど同じ日に山のてっぺんまで道がひけるよう、うまく仕事のはやさを調節しなければいけません。

 そのおかげで東と西の道は、ちょうど同じ日に山のてっぺんでつながりました。勝負はひきわけです。

 協力してりっぱな仕事をおえたので、村人たちはけんかをするのもばかばかしくなって、これからは仲よく暮らすことにしたということです。
 

 
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