杓の底抜け子の子の左衛門 |
長者さんは長年はたらいてくれた下男をよんでいいました。 「お前もよくつとめてくれたから、ここらでほうびをやろうと思う。のぞみのものがあったらいってこらん」 とつぜんの話で、下男はもじもじしながら考えました。お金や食べ物をもらっても、すぐに使いきってしまうだろうし、長者さんは下男にもよくしてくれるので、これといって不自由はしていなかったのです。
これには長者さんも少しこまってしまいました。長者さんには息子がなく、娘がひとりいるだけです。たったひとりの娘を嫁にやるということは、この下男を自分のあととり息子にするということです。 けれど、これまでの下男のはたらきを思えば、まじめでかしこい人間だというのがわかります。家柄だけの男に娘をくれてやるくらいなら、はたらきものの下男と夫婦にしてやったほうがいいのではないかと思いました。 そこで長者さんは、下男の知恵をためそうと思い、こんなことを言いました。
下男は手紙をもって町に出ましたが、どうしていいかわからずとほうにくれました。「杓の底抜け子の子の左右衛門」なんてへんな名前の人はこの世にいるはずがありません。 <<長者さんは娘を嫁にやりたくないから、わざとでたらめなことをいったんだろうか。いや、それならこんないじのわるいことをいわなくても、別ののぞみにしろとおっしゃるだろう。きっとなにか、意味があるにちがいない>> 「おかしなお人だ。目あきのくせに座頭にぶつかるなんて」 座頭さんは笑いながらそういいました。 座頭さんというのは、目の見えない按摩さんのことです。あちこちの家によばれていくから、なにか知っているかもしれないと思い、下男は「杓の底抜け子の子の左右衛門」のことを話しました。 「ふむ、するとあんたはこのなぞをとけば、長者さんのあととり息子になるということだ。そうしたら、あたしにとってもお得意さんだから、教えないわけにはいきませんな。
こうして、下男は長者さんの娘婿になり、すえながくしあわせにくらしました。たすけてくれた座頭さんには、あとでたくさんお礼をしたということです。
|
|目次|珍獣の館|山海経|博物誌|直前に見たページ| |
|