猫と南瓜
 
 
 ある農家で長くかわれていた鶏(にわとり)が、きゅうにさわがしく鳴きはじめました。あんまりうるさいので、お百姓さんは鶏を山にすててしまいました。

 それから数日後、旅のお坊さんがやってきていいました。
「山で鶏をひろいましたが、この家の鶏ですかな。拙僧がとおりがかると"旦那さんを猫がトテコー"と鳴くので、あわててようすを見にきたのです」

 その家には、これまた長くかわれた猫がいました。お百姓さんは、あの猫が自分をとって食うなんてことは信じられませんでした。

 ところが、しばらくようすを見ていると、猫が竹やぶでおかしなことをしているのを見てしまいました。真っ赤な毒きのこに自分のしっぽをこすりつけているのです。

 お百姓さんは、こっそり猫のあとを追いました。猫は家にかえってくると、みそ汁のはいった鍋のなかにしっぽをいれてかきましていました。

猫と南瓜
「たいへんだ。この猫はほんとうにおらを取り殺すつもりだな。長いことかわいがってやったのに、魔ものにでもとりつかれたんだろうかなあ」
 お百姓さんは、しかたなく猫をつかまえて、殺してしまいました。そうして猫の死体は畑のすみにうめておきました。

 それからしばらくすると、なにもしないのに畑に南瓜(かぼちゃ)がはえてきて、立派な実がたくさんつきました。同じころ、鶏がまたさわがしく鳴くようになりました。

「またなにか悪いことでもおこるんかのう。しかし、おらにはどうやってもコケコッコーとしかきこえんのう」

 お百姓さんがこまっていると、いつかのお坊さんがまた通りがかり、
「こちらでは南瓜をつくっておられるのかな。さきほどから鶏が"カボチャクーナァ"と鳴いているようだが」
というので、畑に行って南瓜のつるを抜いてみると、南瓜の根っこが殺してうめた猫の目玉からはえているのでした。

 お百姓さんはきみがわるくなり、南瓜はぜんぶつぶして、二度と猫はかわないことにしたそうです。

# 同じ話で猫から生えてきたのが枇杷の木(群馬)などのバリエーションあり。
 

 
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